アクティブマター班では、「アクティブ乱流」と「スウォーミング」の二種類の実験を行いました。この記事では「アクティブ乱流」の実験について説明を行います(「スウォーミング」についてはこちら)。
乱流の定義ははっきりしていないのですが、強いて言えば「気体や液体といった流体の、時間的・空間的に乱れた不規則な流れ」のことです。逆に乱れていない流れのことを層流と言います。例えば鳴門の渦潮や、川などの水の流れ、ものを燃やしたときの煙の流れは乱流です。一方、蛇口から少しずつ水を出したときの流れは層流とみなすことができます。
乱流であるか層流であるかの指標としてレイノルズ数[2]と呼ばれる量があります。これは慣性の影響を粘性(流体が持つねばりけ)で割ったものであり、乱流はレイノルズ数の大きい流れです。
バクテリアなどの自分で動く粒子を液体に入れた上で濃縮して「密」な状態にすると、通常の乱流のような乱れた流れが生じます。これをアクティブ乱流といいます(バクテリアの場合はバクテリア乱流ともいいます)。
アクティブ乱流の中では、細長いバクテリアたちは互いに向きを揃えようとします。これはいくつかのバリエーションはあるものの、アクティブマターに共通する性質です。 一方、個々のバクテリアが泳いで周囲の液体をかき混ぜることでバクテリアの周りの液体に流れが生じます。この流れによってバクテリアたちが向きを揃えにくくなります。
この二つの相反する作用により、近くではバクテリアが向きを揃えるものの、少し離れると向きがバラバラになり乱れた流れが見えるようになります。
先ほど述べたとおり通常の乱流はレイノルズ数の大きい流れですが、アクティブ乱流は例外的にレイノルズ数が小さくても生じる乱れた流れです。流体の構成要素であるバクテリアが自分で動くことによって、レイノルズ数が小さくても乱れた流れになるのです。
私たちはこのアクティブ乱流を実際に作って観察してみました。
実験には枯草菌というバクテリアを用いました。これが実際の枯草菌の写真です。
実験は以下の方法で行いました。
観察した結果の動画がこちらです(こちらにもう少し長い動画があります)。
このように、バクテリアを濃縮することで不規則で大きな流れが生じることがわかります。これがアクティブ乱流です。
解説PDFでは、この動画を用いてアクティブ乱流の速度場[3]を調べるなどのより詳しい解析を行っています。 例えばこの動画(リンク)では、元の乱流の映像の上に解析で得られた速度場を矢印で表示しています。速度を表す矢印を見ると、確かに狭い範囲では向きが揃っているものの、全体的には進んでいる方向がバラバラになっていることがわかります。
この記事では、アクティブマター班で行った実験の一つである「アクティブ乱流」について解説しました。 上でも述べたとおり、解説PDFではアクティブ乱流の動画を解析して速度場を調べたりエネルギースペクトルを求めたりしているので、興味を持った方はぜひそちらもご覧ください。
また、アクティブ乱流についてより詳しく知りたい方には、予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理」の学術対談の動画(リンク)がオススメです。
本実験は東京大学大学院理学系研究科物理学専攻 竹内研究室の協力のもと行われました。この場で改めてお礼を申し上げます。