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一般相対性理論
特殊相対論の話をふまえた上で一般相対論の導入の話をします。
最終更新: 2021.05.14 11:58

一般相対論の導入

等価原理

一般相対性理論の22つの出発点のうちの11つ、等価原理について説明します。等価原理とは、「どのような重力場でも、時空の任意の点のまわりで局所的に重力場を消すことができる」という主張を指します。この主張を詳しくみていきましょう。「場」とは何か気になる方は古典力学の記事に詳細な説明が載っているのでそちらを参照してください。

まず、地球上空で万有引力を受けて自由落下するような観測者が自分の近くを見回すことを想像してください。自分と同じ高さにいるリンゴと一緒に落ちている場合、観測者からするとリンゴは宙に浮いており、見かけ上は力が働いていないように見えます。つまり、この人の近くでは、万有引力は「なくなった」ように思えるのです。「重力場を消すことができ」たのです。

しかし、この人がもっと広く全世界を見回したとすると、全ての物体が先ほどのリンゴのように観測者から見て万有引力から受ける力を00にすることができるのでしょうか?できません。万有引力によって受ける力は、地球の中心に近ければ近いほど強くなります。つまり、例えば地上100m100m地点で「無重力状態」になっている観測者から地上10m10m地点で落下しているリンゴを見ると、10m10mのリンゴには地球中心方向への力が働いているように見えます。それゆえに、この観測者は自分の近く(「局所的」)に限って万有引力があたかも働いていないかのように見えて、遠くではどうしても万有引力による力が見えることになります。これが冒頭の主張の、重力場は消せたとしてもその観測者の近くに限るという条件を示しています。

続いて、等価原理からわかることを説明します。

慣性質量と重力質量が等しいこと

ニュートン力学第22法則によると、物体の受ける力FF(太文字は「ベクトル」を表します)と物体の「慣性質量mImIと加速度a=d2rdt2a=d2rdt2(加速度は位置の22階微分です。)の関係は式で書くと、 mId2rdt2=FmId2rdt2=F という形になります。ここで単に「質量」と言わずに、「慣性質量」と書いたことを覚えておいてください。

次に、物体にかかる重力FGFGについては、物体にごとに決まっている量mGmGを用いて FG=mGgFG=mGg という関係が成立することが知られています。このmGmGは「重力質量」と呼ばれるものです。ggは重力の方向を示すベクトルで、それぞれの成分は加速度と同じ単位をもたせます。ここでは地球の万有引力の話をするので、鉛直方向にzz軸を取ってzz成分の力だけを考えて、 FG=mGgFG=mGg と書きましょう。このggは高校で習う重力加速度に対応するものですが、ここで、少し頭が混乱してしまうようなことを言います。この段階ではまだg9.8 m/s2g9.8 m/s2とは限りません。実際に計測可能なのは「力」であって、人間が勝手にmGmGggの積に分解しているのです。実はmGmGggの値は色んな値を取る可能性があります。例えば、同じ物体に対して、gg22倍にしてもmGmG1/21/2倍にすれば物体にかかる力は同じになって、同じ運動をします。どちらにしても、力と重力質量が比例しているということが重要です。ggを何にするかはこの節の最後に決めます。あとで思い出しましょう。

等価原理によると、重力を一部空間で打ち消すことができます。では実際に無重力な場所を作りたいと思います。地球上でエレベーターに乗り、ワイヤーと安全装置を全て切ってしまうと、エレベーターは自由落下を始めます。これをエレベーターの中の人と外の人から観測しようと思います。エレベーターの中の人の慣性質量をmImI、重力質量をmGmG、エレベーターの外の人から見たエレベーター全体の加速度をaaとすると、エレベーターの中の人が見る力というのは、 F=FGmIa=mGgmIaF=FGmIa=mGgmIa になります。今、エレベーターの中の人は無重量状態といったので、上の式は00に等しくなります。すると mGmI=agmGmI=ag という式が得られます。ここで注意してほしいことは、mImIaamGmGggの間はこの式にある関係でのみ結ばれているということです。また、今回はエレベーター内の人に注目しましたが、エレベーターに乗り込んでいた他の任意の物体の重力質量についても上式の関係で結ばれています。これが等価原理から導かれる最も大事な主張です。

ところで、重力質量について説明したときに、ggには任意性があるという話をしました。ここで、g=ag=aとしても構わないのです。すると、この条件の下で、mI=mGmI=mGとなって、「慣性質量と重力質量の値は等しい」ということになるのです。

光は重力が強いと曲がって見える

「光速度不変の原理」という言葉を聞いたことあるでしょう。実は、これは一般相対論よりも限定された特殊相対論においてのみ成立しており、より一般の状況では成立しません。どんなときに光速度が不変かというと、重力が働かないときです。

自由落下する観測者から考えてみましょう。自由落下する観測者からすると、重力が働かないときなので、光速度不変です。自由落下する観測者が見る横方向の光は、まっすぐ等速に進むように見えるでしょう。   この光の軌跡を、地上の観測者から見てみましょう。自由落下する人から見て光の軌跡はまっすぐ横に進むということは、光の高さは落下する人の高さと同じであるということです。つまり、時間が経つと、地上にいる人から見て、光は少し地面側に落ちている(屈折している)ように見えます。

これは、光が重力のある方向に曲げられるという事実を示しています。

座標の取り方は色々だが「同じもの」を見る

一般相対論では「物理法則は見る人の見かたによらず同じ形で書けるはず」という「信念」、つまりは原理を持っています。あるいは、「時空は幾何学的な実体である」と言われたりもします。これらの考え方を一般相対性原理と言います。そしてこの「原理」に基づいて物理を正しく取り扱う方法がテンソル解析です。この紹介記事ではテンソル解析については詳しくは取り扱いませんが、複雑そうな式の背景にあるエッセンスがわかればいいと思います。   幾何学的な実体というのがどういうことかを説明しましょう。例えば、目の前の平らな机に、33つの点があるとします。これが幾何学的な実体です。私たちは、この33つの点の関係を他の人に伝えようとするとき、座標という手段を用いることができます。例えば、11つの点を起点として、他の22つの点をベクトル(3 cm,4 cm),(4 cm,5 cm)(3 cm,4 cm),(4 cm,5 cm)と表すことができます。しかし、この表現が唯一というわけではありません。例えば、先程はセンチメートルで座標を表しましたが、メートルやマイルで表しても大丈夫なはずです。また、座標軸を回転することも考えられます。すると、(3 cm,4 cm)(3 cm,4 cm)と表されていた点が、(5 cm,0 cm)(5 cm,0 cm)となることもあるわけです。原点の移動も考えられます。ですが、3つの点は私たちが適当に座標を取ろうとも、取らなかろうとも、位置関係が変わることはありません。この不変性があるというのが幾何学的な実体であることの一つの現れです。

ここまでの話をまとめてみましょう。幾何学的な実体(法則の式など)は、私たちの座標の取り方によりません。しかし、私たちは座標に基づいて議論をした方が数学の手法が使えるので、どうしても座標を導入したくなります。そして座標の取り方によって、同じものを見ているのに座標や物理量の値は変わってしまいます。座標系の取り方を変えたときに、座標や物理量がどう変わるかを決める手法が、テンソル解析なのです。先ほどまでは、座標の変換の例しか出しておりませんでしたが、実はそこに張り付いたベクトルやテンソルと呼ばれるものも座標が変わると成分の値が変換されるのです。逆にいうと、物理法則は座標の取り方によって見かけ座標の値やベクトルの値は違うように見えても、物理の法則は同じ形の式で表されているのです。

一般相対論での重力の表現のしかた

一般相対論では重力をどのように表現しているのでしょうか?結論からいうと重力は「計量」とよばれる量から計算できます。 計量はすでに特殊相対論の記事でもでてきました。そこでは44次元の「距離」のようなものds2ds2を考えました。 特殊相対論での計量はよくημνημνという記号で表されますが、 ημν={1(μ=ν=0)1(μ=ν=1,2,3)0(μν) でした。これをミンコフスキー計量といいます。 そして、時空内の点Pと点Qの座標がそれぞれ(x0,x1,x2,x3)(x0+dx0,x1+dx1,x2+dx2,x3+dx3)だった場合に、 ds2=ημν(x)dxμdxν という風に定めました。このときds2はローレンツ変換のもとで不変になります。 しかしこれは重力のない慣性系での話に限ったものでした。一般相対論ではこの「距離」の定義を、無重力のときは特殊相対論のものと一致するように一般化します。 どういうことかというと、gμν(x)  (μ,ν=0,1,2,3)という時空内の点の位置に依存する16個の関数が用意されていて、 ds2=gμν(x)dxμdxν という風に定義します。 このときのgμνを物理では計量といいます。 PQ間の「距離」はどんな座標系の取り方にもよらない値を取って欲しいです。しかし、別な座標系を取ってしまうと一般には2点間の座標の差は変わります。 それでもds2が同じ値を持つためには、計量の値を座標系に応じて調節する必要があることが分かります。 ところで座標の差というのは上の式でいうdxμのことです。この座標の差は2つの座標系の関係が分かっていれば計算できます。 したがって計量の値をどのように調節すればよいかは2つの座標系の関係が分かっていれば容易に分かります。

さて、無重力な系というのは自分が自由落下すれば実現できます。無重力な系では特殊相対論が成り立つので計量はημνです。 一方、自由落下する人を眺めている重力下の人にとっては計量はgμνです。 重力下の人は自由落下する人の落ち方を眺めていれば互いの座標系の関係を調べることができます。つまり、自由落下のしかたというのは座標系間の関係に押し込まれています。 その座標系間の関係を用いてημνを調節することでgμνを得ることができます。 つまり、自由落下のしかたは計量gμνに含まれています。 ところで、重力の様子というのは自由落下のしかたを見ていれば分かるので、結局、重力の情報はすべて計量gμνに含まれていることが分かります。

質点の運動方程式

さて、以上で重力が計量gμνと密接に関係していることが分かりました。 今度は計量から実際に質点にはたらく重力を計算するために、重力以外の力がはたらいていない質点の運動を考えてみましょう。

まず等価原理より、ある瞬間、質点のまわりに重力がないように見える座標系をとることができます。

例えば自由落下しているリンゴと共に自由落下する人から見ればリンゴには重力がかかっているようには見えません。

このような特別な座標系をX系とよぶことにします。 X系では質点に重力ははたらかないので特殊相対論の結果が使えると仮定します。 質点に力がはたらかないときの質点の運動方程式は、特殊相対論の議論から md2Xμ(τ)dτ2=0 でした。τは質点の固有時です。詳しくは特殊相対論の記事を参照してください。

しかし、上の式はある特別な座標系であるX系から見たときの運動方程式です。 一般的な座標系x系から見たときの運動方程式がいま求めたいものです。 そのためにはX系で表されている量を全てx系の量で表せばよいだけです。 すなわち、いま座標の関係が Xμ=Xμ(x0,x1,x2,x3) であるとして先の運動方程式に代入します。 すると、 d2xρdτ2+Γρ λνdxλdτdxνdτ=0 となります。この右辺のΓρ λνdxλdτdxνdτが重力に相当します。 ここでΓρ λνは計量と座標系が与えられれば決まる量で、 Γρ λν=12gρσ(gνσxλ+gλσxνgλνxσ) と計算されます。わからないと思いますが大事なのは、計量とその微分だけから計算できる、ということです。 式変形は解説PDFに書いたのでご覧ください。

これが与えられた重力場中を運動する質点の運動方程式です。 この式の左辺は別の座標系で表しても同じ形になり、一般の座標系でいつも同じ形です。 これは一般相対性原理に合致します。

アインシュタイン方程式

先ほどは与えられた重力場中を運動する質点の運動方程式を求めました。 一方、重力場すなわち時空の計量gμνはアインシュタイン方程式という連立偏微分方程式で決まります: Rμν12gμνRΛgμν=8πc4GTμν. 右辺のcは光速で、Gは万有引力定数です。これは馴染みがあると思います。Tμνは物質の分布や運動のしかたから決まる量です。 左辺のRμνRgμνやその微分などで定義されている量であり、時空の幾何学的な量です。 ちょっとこの式だけだとよくわからないと思うので、RμνRの具体的な中身は解説PDFの方に書きました。ぜひご覧ください。 Λを宇宙定数とよび、この項をを右辺に移項し、また時間変化も許してTμνに吸収させて真空の性質として解釈したものをダークエネルギーとよびます。 アインシュタイン方程式は時空の幾何学的な性質が物質の分布の仕方に依存する、ということを主張しています[1]

参考文献

[1] 内山龍雄 (1978). 『一般相対性理論』 裳華房.


  1. サムネイルはGerd AltmannによるPixabayからの画像です。 ↩︎