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一発芸としての第二法則

⚠記事の内容は学生個人の見解であり、所属する学科組織を代表するものではありません。

飲み会で「え,〇〇物理学科なの?なんか見せてよ」と無茶ぶりされたときに,あたふたしたくないですよね.そんなとき一瞬で示せるとカッコいい定理を紹介します.皆さんもぜひ自己紹介のタイミングで示してみてください. (かなり粗い理解をしている部分が多々あります.ご指摘などありましたらご連絡いただけると幸いです.)

セットアップ

熱浴Bと系Sが接している状況を考えます.全系のハミルトニアンは,

H^:=H^S+H^I+H^B
とかけます.ただし,H^S, H^Bはそれぞれ系,熱浴のハミルトニアンで,H^Iは系と熱浴の相互作用を表すハミルトニアンです.  初期条件は,S,Bの間で相関がないような状態でかけます.
ρ^(0)=ρ^s(0)ρ^Bcan
S系は任意の状態を持ってきてよくて,Bの初期状態はカノニカル分布ρ^Bcan=exp(βH^B)Zとします.Zは分配関数.系全体はユニタリ発展するから,ρ^(t)=U^ρ^(0)U^と書けます.このときの系,熱浴の状態はρ(t)の部分トレースでかけます.つまり,
ρ^B=TrSρ^(t),  ρ^S=TrBρ^(t)
となります.

やりたいこと

熱力学第二法則は,大学1年生で習う熱力学では,定理というよりかは原理として導入されるものです.その表現は様々で,例えばトムソンの原理やクラウジウスの原理などが挙げられますね.(なんかの論文に第二法則の同値な言い換えが21個くらい載ってた気がするけどどれだか忘れちゃったし,ホントに載ってたかも忘れちゃった......)  要は,平衡熱力学じゃない上のセットアップから第二法則を示すのが今からやりたいことです.実際,これ以降導入するvon Neumannエントロピー

S(ρ^S)=Tr[ρ^Slnρ^S]
は,密度行列の固有値に注目すれば形式的にShannonエントロピーと一致します.

定理と証明

系のvon Neumannエントロピー変化をΔSS=S(ρ^S(t))S(ρ^S(0)), 系の吸熱をQ=TrB[H^B(ρ^B(t)ρ^B(0))]とします.そもそも,熱浴は仕事をしないと思えば,(系の受け取るエネルギー)=(熱浴の出すエネルギー)=(熱浴のエネルギー減少)となることから理解できると思います.このとき,以下が成立します.

ΔSSβQ0
これが熱力学第二法則に相当します.(要は系と熱浴のエントロピー変化の和が非負ってコト.) 以下,証明.初期条件でのエントロピーは,
(1)S(ρ^(0))=TrS[ρ^S(0)lnρ^S(0)]TrB[ρ^Bcanlnρ^Bcan](2)=SS(0)TrB[ρ^Bcanlnexp(βH^B)Z](3)=SS(0)+βTrB[H^Bρ^B(0)]+lnZ
とかけます.熱浴Bの初期状態はギブス分布である(ρ^B(0)=ρ^Bcan)ことに注意してください.時刻tにおけるエントロピーは,相対エントロピー
D(ρ^||σ^)=Tr[ρ^(lnρ^lnσ^)]
の非負性を用いれば,
(4)S(ρ^(t))=Tr[ρ^(t)lnρ^(t)](5)Tr[ρ^(t)ln(ρ^S(t)ρ^Bcan)](6)=Tr[ρ^(t)ln(ρ^S(t)IB)+ρ^(t)ln(ISρ^Bcan)](7)=SS(t)+βTrB[H^Bρ^B(t)]+lnZ
とできます.ここで,全系についてはユニタリー発展をしているので,
(8)S(ρ^(t))=Tr[ρ^(t)lnρ^(t)](9)=Tr[U(ρ^(0)lnρ^(0))U](10)=Tr[ρ^(0)lnρ^(0)]=S(ρ^(0))
となります.以上の結果を整理すると,求めたかった不等式が示せました.

注意事項

 証明を見たときかなりコンパクトだったので「一発芸になるやん!」と思ってこの記事を書きましたが,この記事の執筆をしているうちに説明に思ったより時間がかかることに気が付いたので,これは飲み会の一発芸には向かないかもしれません.また,以上はIyoda,Kaneko,and Sagawa(2017)より引用した証明になります(究極の出典はあるかもだけど). このお三方が同じ飲み会にいらしている場合は控えることを強くお勧めします.

参考文献

Iyoda, E., Kaneko, K., & Sagawa, T., Phys. Rev. Lett. 119, 100601(2017)