ローレンツ群の連結成分の個数
はじめに
多くの物理の教科書でローレンツ群の連結成分の個数は4個であると述べられていますが、残念ながら議論は不十分です。ほとんどの本の議論はローレンツ変換が
のいずれかを満たし、また
が成り立つことを示すことで、ローレンツ群の連結成分の個数が4個だと主張しています。しかしこれは、連結成分の個数が4個以上であることしか主張していません。もしが追加の条件で分離されているなら、連結成分が8個になってしまう可能性もあるでしょう。
この記事では、ローレンツ群の連結成分の個数が4個であることをある程度厳密に示します。
ローレンツ群
まずはローレンツ変換の定義から始めます。ローレンツ変換とは、線形変換であって、
を満たすものです。ローレンツ変換を全て集めた集合をローレンツ群と呼びます。ここで
なので、これがと等しいためには
が満たされていればよいです。を成分とする行列をそれぞれとすれば、ローレンツ変換の条件は行列で
と書けます。両辺の行列式を取ることで、
が成り立つので、
を得ます。
またでとすると
となるので、
も成り立ちます。よって、あるいはが成り立つことになります。
ローレンツ群の連結成分
以下の4つの変換はすべてローレンツ変換です。
これらの変換はそれぞれとの4つの場合の全てを尽くしています。よって、ローレンツ群には少なくとも4つの連結成分があります。
連結成分とは何かを軽く説明します。ローレンツ群の連結成分とは、その中の任意の2つの変換が連続的にパラメータ付けられた変換の集合、つまり曲線でつなげるようなローレンツ群の(最大の)部分集合のことを言います。
およびという条件はに微小ローレンツ変換をかけても変わりません。よってローレンツ群の4つの部分集合
は連結成分の候補になります。このとき以下の4つの変換
はそれぞれの元なので、はどれも空ではありません。しかしまだこれらの集合が連結であることは示していないので、連結成分が4つであるとは言えません。
の元にをかけるとそれぞれの元になり、もう一度同じものをかけると元に戻るので、の元は1対1に対応しています。よってが連結であることを示せばも連結であり、ローレンツ群の連結成分が4つであることが証明できます。
恒等変換を含む集合はローレンツ群の部分群であり、本義ローレンツ群と呼ばれます。また本義ローレンツ群の元は本義ローレンツ変換と呼ばれます。以下では本義ローレンツ変換について議論します。
本義ローレンツ群が連結であることの証明
本義ローレンツ群が連結であることを示します。このために、任意の本義ローレンツ変換がブーストと空間回転によって
と書けることを示します。まずブーストと空間回転とは何か説明します。
ブースト
ブーストとは、3元ベクトルによって
と書かれる本義ローレンツ変換のことです。ただしはの単位行列です。
このときと置くと、
が成り立ちます。
有限のブーストは曲線
で恒等変換とつながっています。
空間回転
空間回転は回転軸の方向を向き、大きさが回転角度であるようなベクトルによってと表すことができ、が平行なら
が成り立ちます。
有限の空間回転は曲線
で恒等変換とつながっています。
証明
とすると、
という変換はを不変に保ちます。ただしはの空間成分であり、から
であることが保証されています。
よって、静止したものを静止したままにするので、直感的には空間回転です。が空間回転であることを実際に示します。はを不変に保つことから、何らかの3元ベクトルと行列によって
と書くことができます。これをローレンツ変換の条件に代入すると、
が成り立つので、
となります。このときよりであり、は空間回転です。よってはブーストと空間回転の積
で書くことができ、ブーストと空間回転は恒等変換と曲線でつながっているのでも恒等変換と曲線でつながっています。よっては連結です。
おわりに
ローレンツ群の連結成分が4個であると述べている文献は多くありますが、本義ローレンツ群が連結であることを示しているものは少ないと思います。本来はこのような議論を行う必要があります。