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アドカレ|13日目

ローレンツ群の連結成分の個数

はじめに

多くの物理の教科書でローレンツ群の連結成分の個数は4個であると述べられていますが、残念ながら議論は不十分です。ほとんどの本の議論はローレンツ変換xΛx

Λ001,Λ001

のいずれかを満たし、また

detΛ=±1

が成り立つことを示すことで、ローレンツ群の連結成分の個数が4個だと主張しています。しかしこれは、連結成分の個数が4個以上であることしか主張していません。もしΛが追加の条件で分離されているなら、連結成分が8個になってしまう可能性もあるでしょう。

この記事では、ローレンツ群の連結成分の個数が4個であることをある程度厳密[1]に示します。

ローレンツ群

まずはローレンツ変換の定義から始めます。ローレンツ変換とは、線形変換xμxμ=Λμνxνであって、

ημνxμxν=ημνxμxν

を満たすものです[2]。ローレンツ変換を全て集めた集合をローレンツ群と呼びます。ここで

ημνxμxν=ημνΛμρΛνσxρxσ

なので、これがηρσxρxσと等しいためには

ημνΛμρΛνσ=ηρσ

が満たされていればよいです。Λμ_ν,ημνを成分とする行列をそれぞれΛ,ηとすれば、ローレンツ変換の条件は行列で

ΛTηΛ=η

と書けます。両辺の行列式を取ることで、

(detΛ)2=1

が成り立つので、

detΛ=±1

を得ます。

またημνΛμ_ρΛν_σ=ηρσρ=σ=0とすると

1=(Λ00)2+(Λ10)2+(Λ20)2+(Λ30)2

となるので、

(Λ00)2=1+(Λ10)2+(Λ20)2+(Λ30)21

も成り立ちます。よって、Λ001あるいはΛ001が成り立つことになります。

ローレンツ群の連結成分

以下の4つの変換はすべてローレンツ変換です。

これらの変換はそれぞれΛ001,Λ001detΛ=±1の4つの場合の全てを尽くしています。よって、ローレンツ群には少なくとも4つの連結成分があります。

連結成分とは何かを軽く説明します。ローレンツ群の連結成分とは、その中の任意の2つの変換が連続的にパラメータ付けられた変換の集合、つまり曲線でつなげるようなローレンツ群の(最大の)部分集合のことを言います[3]

Λ001,Λ001およびdetΛ=+1,detΛ=1という条件はΛに微小ローレンツ変換をかけても変わりません。よってローレンツ群の4つの部分集合

S1={Λ00+1,detΛ=+1},S2={Λ00+1,detΛ=1}S3={Λ001,detΛ=1},S4={Λ001,detΛ=+1}

は連結成分の候補になります。このとき以下の4つの変換

Iμν=(1000010000100001),Pμν=(1000010000100001)Tμν=(1000010000100001),(PT)μν=(1000010000100001)

はそれぞれS1,S2,S3,S4の元なので、S1,S2,S3,S4はどれも空ではありません。しかしまだこれらの集合が連結であることは示していないので、連結成分が4つであるとは言えません。

S1の元にP,T,PTをかけるとそれぞれS2,S3,S4の元になり、もう一度同じものをかけると元に戻るので、S1,S2,S3,S4の元は1対1に対応しています。よってS1が連結であることを示せばS2,S3,S4も連結であり、ローレンツ群の連結成分が4つであることが証明できます。

恒等変換Iを含む集合S1はローレンツ群の部分群であり、本義ローレンツ群と呼ばれます。また本義ローレンツ群S1の元は本義ローレンツ変換と呼ばれます[4]。以下では本義ローレンツ変換について議論します。

本義ローレンツ群が連結であることの証明

本義ローレンツ群S1が連結であることを示します。このために、任意の本義ローレンツ変換ΛがブーストBと空間回転Rによって

Λ=BR

と書けることを示します。まずブーストと空間回転とは何か説明します。

ブースト

ブーストとは、3元ベクトルvによって

B(v)=(1+|v|2vTvI+(1+|v|21)vvT|v|2)

と書かれる本義ローレンツ変換のことです。ただしI3×3の単位行列です。

このときe=v/|v|と置くと、

B(esinhη)B(esinhη)=B(esinh(η+η))

が成り立ちます。

有限のブーストB(v)は曲線

c(t)=B(tv),0t1

で恒等変換とつながっています。

空間回転

空間回転は回転軸の方向を向き、大きさが回転角度であるようなベクトルθによってR(θ)と表すことができ、θ,θが平行なら

R(θ)R(θ)=R(θ+θ)

が成り立ちます。

有限の空間回転R(θ)は曲線

c(t)=R(tθ),0t1

で恒等変換とつながっています。

証明

kμ=(1,0,0,0)とすると、

Λ¯=B(kΛ)1Λ

という変換はkμを不変に保ちます。ただしkΛΛkの空間成分であり、Λ00+1から

(Λk)0=1+|kΛ|2

であることが保証されています[5]

よって、静止したものを静止したままにするので、直感的にΛ¯は空間回転です。Λ¯が空間回転であることを実際に示します。Λkμを不変に保つことから、何らかの3元ベクトルV3×3行列Pによって

Λ¯=(1VT0P)

と書くことができます。これをローレンツ変換の条件η=Λ¯TηΛ¯に代入すると、

(100I)=(10VPT)(100I)(1VT0P)=(10VPT)(1VT0P)=(1VTVVVT+PTP)

が成り立つので、

V=0,PTP=I

となります。このときdetΛ¯=+1より[6]detP=1であり、Λ¯は空間回転Rです。よってΛはブーストと空間回転の積

Λ=B(kΛ)R

で書くことができ、ブーストと空間回転は恒等変換と曲線でつながっているのでΛも恒等変換と曲線でつながっています。よってS1は連結です。

おわりに

ローレンツ群の連結成分が4個であると述べている文献は多くありますが、本義ローレンツ群が連結であることを示しているものは少ないと思います。本来はこのような議論を行う必要があります。


  1. 物理で納得できるくらいの厳密さで示します。この記事のアイデアを数学的に厳密な形で表すのは容易でしょう。 ↩︎

  2. この記事では、計量ημνの符号を(,+,+,+)とします。 ↩︎

  3. これは厳密には弧状連結成分の定義ですが、多様体の弧状連結成分と連結成分は一致するので問題ありません。 ↩︎

  4. 本義ローレンツ変換のことを単にローレンツ変換と呼ぶこともあります。 ↩︎

  5. Λ0_01だと(Λk)0=1+|kΛ|2より(Λ¯k)μ=(1,0,0,0)kμとなってしまいます。 ↩︎

  6. Λ,B(k_Λ)S1S1はローレンツ群の部分群であることからΛ¯=B(kΛ)1ΛS1です。 ↩︎