徒歩革命〜"分速80m"を超えて〜
はじめに
注意 一般的な人より速く歩くときは周囲の安全に十分注意してください。周りの迷惑にならないよう配慮することがファストウォーカーの最低限のマナーです。 また、本記事を真に受けて遅刻が増えた、疲労が溜まるようになったなどの実害が出ても当方は一切の責任は負いかねます。一方、本記事を真に受けて運動が習慣化し健康な体を手に入れた諸君は本記事の執筆者である私に感謝する責任が生じます。
みなさん、突然ですが、どれくらいの速さで歩いていますか?筆者は一般的な成人男性よりも歩くのが速いことを自覚しています。朝のラッシュ時にサラリーマンの方がホームまで小走りで向かっているのを徒歩で追い抜いてしまうことが稀にあるレベルです。
さて、これだけ歩くのが速いと、Google Map 等で表示される目的地までの時間はまず信用できません。筆者は初めての道を元気な状態で1人で歩くときは、急いで行くなら0.8倍の時間で着けると判断しています[1]。
こうなると、単に「移動にかかる時間が減って便利〜」だけでは済まなくなります。Google Map で表示される時間が本当に最短経路なのか疑う必要が出てくるのです。 というのは、徒歩の速さが遅いと目的地までの時間は徒歩が律速になることが多く、必然的に目的地の最寄駅まで公共交通機関で行きそこから歩く経路が引っかかります。しかし、歩くのが速いと、駅から目的地までは多少遠くても、その駅まで早く着ければその経路の方が実は早いという状況が出てきます。歩く速度を固定されたアルゴリズムではこういう経路は引っかからないでしょう。
そこで、本記事では、Google Map が提示するどの経路よりも短い時間で着ける経路が存在することを実証します。
「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」第5章 表示基準 第10条「物件の内容・取引条件等に係る表示基準」
まずはGoogle Map 等の経路探索アルゴリズムが何を根拠に所要時間を計算しているのか確認しましょう。
クイズを齧ったことのある人なんかはよくご存知だと思いますが、不動産広告の徒歩所要時間について、以下のような省令があります。
「不動産の表示に関する公正競争規約施行規則」第5章 表示基準 第10条「物件の内容・取引条件等に係る表示基準」(10)
徒歩による所要時間は、道路距離80メートルにつき1分間を要するものとして算出した数値を 表示すること。この場合において、1分未満の端数が生じたときは、1分として算出すること。
Google map 等のアプリで表示される所要時間についてはこのような規制はありませんが、きっとこんなもんだと予想できます。実際いくつかの経路について調べてみると、以下のようになりました。[2]
距離 | 所要時間 | 勾配 | 分速 | |
---|---|---|---|---|
筆者自宅-最寄駅 | 500 m | 7分 | ほぼ平坦 | 70(10) |
根津駅-東大理学部一号館 | 850 m | 12分 | ほぼ平坦 | 74(3) |
西日暮里駅-上野駅 | 2.8 km | 37分 | ほぼ平坦 | 76(5) |
根津駅-西日暮里駅 | 1.9 km | 27分 | ほぼ平坦 | 70(6) |
北千住駅-根津駅 | 6.5 km | 92分 | ほぼ平坦 | 70(2) |
東大総合図書館-東大駒場図書館 | 12 km | 164分 | ↑73 m ↓60 m | 73(3) |
運河駅-葛西臨海公園 | 34 km | 467分 | ほぼ平坦 | 73(2) |
以上のデータから、Google Map は(徒歩の速さを固定しているのなら)分速約72mとしているらしいことがわかりました。筆者の下調べによるとGoogle Map の徒歩の速さを分速80mだとする記事が多かった[3]ので、少々意外ですね。
いずれにせよ、我々の歩く速度は分速80mほどだと思われているようです
実験
私の最寄駅から東京大学理学部一号館または四号館に通学する状況を考えます。次の二つの経路を考えます。
- ??駅
北千住駅 根津駅 理学部一号館 - ??駅
北千住駅 上野駅 理学部一号館
北千住以降の所要時間をYahoo!乗換案内及びGoogle Map で調べると、以下のようになります。なお、所要時間は朝のラッシュ時を想定して8時あたりで検索しました。
- 北千住駅乗換 3分-4分 北千住駅-根津駅 11分 根津駅-理学部一号館 12分 (約850 m) 朝のラッシュによる千代田線の遅れ 2分 合計28分-31分
- 北千住駅停車 0分-2分 北千住駅-上野駅 10分 上野駅-理学部一号館 24分 (約1.7 km) 合計34分-36分
朝のラッシュ時の遅れは日比谷線・千代田線ともに考慮すべきファクターですが、千代田線の方がひどいという話をよく聞くので、取り合えず千代田線の方が2分遅れることにします。
Google Map やYahoo!乗換案内で2番目の経路が提示されることはありませんが、真に早い経路はどちらでしょうか。実際に徒歩にかかる時間を測ってみることにしましょう。
計測は駅の改札から理学部一号館学生控室までとします。道の勾配も重要なファクターなので、スタートとゴールをどちらにおくかも考慮すべきですが、大事なのは1分1秒を争う朝の所要時間なので、どちらも駅から大学への所要時間を測ります。電車を降りてから改札までの距離にも差はありますが、とりあえずは無視します。
根津と上野で差が6分以下なら2番目の経路の方が早いということになりますね。
結果
1回目 | 2回目 | |
---|---|---|
根津-控室 | 6:18 | 6:34 |
上野-控室 | 12:06 | [4] |
なんとか時間差6分切りに成功しました。上野まで全力で歩いて疲れ切った状態でこのタイムなので、元気な時はもっと短くできる可能性が高そうです。これで上野経路の所要時間が根津経路と少なくとも同等の所要時間であることが示されました。
ちなみに、上野経由の方が片道運賃は31円、通学定期券(6ヶ月)は760円安いです。また、上野は交通の要所です。上野までの定期券を持っている方が根津とかいうよくわからん駅に行けるよりも圧倒的に有利です。
これで夏に歩きたくない以外で根津駅を使う理由は完全に無くなりましたね。
徒歩革命
忙しい現代人にとって目的地まで最短時間で着くことは至上命令であるといっても過言ではありません。しかし、それを達成するために我々が用いるGoogle map をはじめとした経路探索アルゴリズムは、現在我々がサービスとして享受できる形では正しい結果を与えてくれないことが示されてしまいました。
皮肉なことに忙しい現代人はこれらの検索機能が示す経路を疑う余裕なんてありません。そう、我々ファストウォーカーの交通はこれらの経路検索AIに支配されているのです。 ファストウォーカーの皆さん、経路検索は慎重に行いましょう。
さいごに
歩く速度に自信がありすぎると、毎度毎度分速150mくらいじゃないと電車に間に合わない時間に出てしまい、結局ホームに着いた瞬間電車が行ってしまうという悲劇が5回に3回くらいは起こります。結局は時間を無駄にしている私でございました。
あれ、意外と遅いな、と感じた人もいると思います。これは単に筆者が絶望的に方向音痴だからです...。また、信号待ちの時間も考慮しないといけません。また、後述の通り、Google Map の想定する徒歩速度はおそらく2023年12月16日あたりから以前の0.9倍になったため、現在の基準で言うと0.7倍程度です。 ↩︎
なお、これらのデータは2023年12月17日23:30あたりから2023年12月18日00:30あたりまでに得たものです。また、距離については四捨五入、所要時間については切り上げがされていると仮定して不確かさを算出しました。 ↩︎
Google Map の仕様変更により遅くなった可能性が高いです。実際、https://appllio.com/google-map-walk-routeや、https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2201/28/news097_2.htmlで紹介されているGoogle Mapの経路を筆者のGoogle Mapでも調べてみると確かに所要時間が1割ほど長くなっていることを確認しました。したがって、以前は確かに分速80mで設定されていたように思われます。2023年12月15日に調べた経路を思い出して再検索したところ、所要時間が長くなっていたきがするので、おそらく仕様変更はつい最近だと思われます。(ただし、Google Map の仕様上経路の出発地点の記録は残っていないうえ、記憶も自信はないためいつ仕様変更があったのかは謎です。) ↩︎
足の筋肉痛のため計測はまた今度。後日更新予定。 ↩︎