PhysicsLab. 2016 BLOG

BEC班の記事

2016.04.17. Sun.
Category: BEC班
こんにちは、今回はBEC班の第3回目です。
前回は、極低温で現れる不思議な現象「BEC」を実現するための手法、「レーザー冷却」を紹介しました。今回は私たちBEC班が実際に行っている実験の様子を少し紹介します。

冷やそうとしているのは、ルビジウムと呼ばれる原子の気体です。レーザー冷却で極低温に冷やすだけでなく、それを磁石の力を借りて一点に集めることを目標にしています。このようにレーザーと磁石で冷やして集めるこの方法は、磁気光学トラップ(MOT)と呼ばれています。



上の写真は実験を行っている光学台の上の様子です。たくさんの器具が置かれているのが分かると思いますが、それらはミラーやレンズといった光学機器です。レーザー光源から出たレーザーを途中で様々な調整を行いつつ、ルビジウムがある場所まで光学機器で導いていきます。具体的には、レンズでレーザーの大きさを変えたり、PBSと呼ばれるものでレーザーを2つに分けたりしています。



最終的に上の写真のような場所にたどり着きます。少し見えにくいですが、中心の辺りにガラスのセルがあり、その中にルビジウムの気体が入っています。ここにレーザーが入るように調整します。実際には、銅線を円形に巻いたコイル2つを、セルを挟むように置き、磁石の力も生み出せるようにしておきます。磁石の力を発生させていないときでもセル内にレーザーの明かりは見えますが、コイルのスイッチを入れると、ボオッとひときわ明るい光を放つ球が現れます。その輝きを放つのが、極低温まで冷やされたルビジウム原子なのです。まだBECには及びませんが、それでも絶対零度からおよそ0.0001℃上という、とてつもなく低い温度になっています。

今はBECにもつなげやすいMOTのやり方に挑戦しています。当日は実際のMOTの動画などもお見せできると思いますのでお楽しみに!
2016.03.14. Mon.
Category: BEC班
こんにちは、今回はBEC班の第2回目です。
前回は、極低温で現れる不思議な現象「BEC」について簡単に紹介しました。そこでBECが起こるのは絶対零度(これ以上下がらない限界の温度、約-273 °C)付近といいましたが、その値はなんと絶対零度から0.0000001°Cだけ上なのです! こんな低温は身の回りには存在しません。しかし、科学の発展は素晴らしいもので、そんな低温を可能にする技術があるのです。今回はそんな極低温を実現するために必要な方法の1つを紹介したいと思います。

ここでまず温度について考えてみましょう。私たちのまわりにある空気は、原子や分子という小さな粒からできていて、その粒が飛び交っています。温度はこの粒の動きの激しさを表しているといえます。つまり、温度が高いときは粒が激しく動いていて、温度を下げていくとその動きが穏やかになっていくといった具合です*1。すると、あるものの温度を下げるにはそのものの動きを遅くしてあげれば良いと考えることができます。

今、先程のような原子を冷やしたいとすると、その動きを遅くするには何かを逆方向からぶつけてあげれば良いことになります。ここで何をぶつけるかが問題となりますが、原子の冷却にはレーザー、つまり光が用いられます。このレーザーを用いた「レーザー冷却」*2は原子を極低温まで(しかも一瞬で!)冷やすことができ、BEC生成に限らず様々な方面で応用されています。

ただ、ここまでの話で疑問が湧いてくるかもしれません。どっちに動いているかも見えない原子に対しては、逆方向だけでなく動いているのと同じ方向にも光が当たって、逆に加速させてしまうのではないか?
しかし、そのようなことは光のある性質のために実は問題にならないのです! ここでは詳しくは説明しませんが、その性質は救急車のサイレンの音の高さが変わって聞こえる現象「ドップラー効果」と関係しています。光にもドップラー効果があり、光の振動数(光の色)を調整すると、動いている原子が同じ方向から来る光を受けにくくすることができるのです(つまり加速はされにくい)。

BEC班では、五月祭当日に、その光の性質を含めたレーザー冷却の原理を分かりやすく説明します。さらに、レーザー冷却で極低温まで冷やされた原子集団もお見せする予定ですので、是非お越しいただければと思います。

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*1例えば、私たちも暖かい日ほど活発になりますよね!
*2この技術に対してノーベル物理学賞が出ています。
2016.01.25. Mon.
Category: BEC班
はじめまして、BEC班の班長をしている萩原と申します。最近は冬らしい寒い日が続いていますね。気温が低くなると、吐く息が白くなったり雪が降ったりと普段とは違うことが起きると思います。ここで、もっと温度が低くなったらどんな現象が見られるようになるのか、それを突き詰めると不思議な現象がたくさん現れます。その中でもとりわけ非常に低い温度で現れ、また、とりわけ興味深い現象があり、それが「BEC」と呼ばれる現象です。

BECはボーズアインシュタイン凝縮(Bose Einstein Condensation)の英語の頭文字を取ったもので、名前の一部にもなっているあの有名なアインシュタインが予言したものです。BECとは簡単に言うと、「多くのものからなる集団の動きが極低温でそろうようになる」現象です。

例えば、私たちの身の回りにある液体には粘り気(粘性)があります。ハチミツや油はもちろんですが、さらさらに思われる水にも小さいながら粘性はあります。この粘性は、液体を構成する粒子の動きがバラバラで摩擦があるために生じます。しかし、ある温度以下まで冷やされBECが起こると、構成粒子は完全にそろって動くようになります。このことは粘性の元となる摩擦が生じないことを意味し、液体は完全にさらさらになります。手で触れようにも何も感じないでしょう(そもそも温度が低すぎて手を入れるのは危険ですが)。この状態の液体はもはや私たちが普段目にする液体とは性質が違っていて、入っているコップをひとりでに這い上がっていくといった奇妙な挙動を示します*

なかなかイメージがわきにくい現象ですが、普段目にすることのない現象ですからある意味当然かもしれません。というのも、BECは低温で起こるといいましたが、実は絶対零度(-273 °C)近くまで冷やさなければならないのです! 私たちBEC班はそんな非日常を実験室の中で実現しようと活動しています。五月祭のPhysicsLab. 2016で、極低温で現れる不思議な世界にぜひ触れてみてはいかがでしょうか。

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*この状態は「超流動」と呼ばれています。動画で不思議な挙動が確認できます。
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