PhysicsLab. 2016 BLOG
2016.05.11. Wed.
Category: その他
全体統括です。五月祭が目前に迫ってきました。今日は当日来場された方にお渡しするパンフレットに掲載した文章から引用(一部改変)する形で、改めて PhysicsLab. 2016 の紹介をしようと思います。

皆さんは物理学にどのようなイメージをお持ちでしょうか? 数式がたくさん出てきてよく分からないという印象を持たれている方も少なくないのではないかと思います。しかし物理学は身近な自然現象の「どうして?」に端を発している学問です。数式は難しくても実際に起こる現象に必ず着地点を持っています。だからこそ、身近な現象に対する理解を与えるという形で、また時には工学的な応用という形で、私たちの日常生活やものの考え方、歴史に深く関わっています。そのことをどのように受け取りどう考えるのかは別問題ですが、少なくとも現代の人間活動を支える土台の一つは物理学にあると言っても過言ではないでしょう。
そんな物理学は物理学それ自体でもとても奥深い世界を形作っています。その深遠な世界に魅了された物理学科の有志が幾つかのテーマを通してその魅力を伝えようと始めたのがこの企画です。全部で八つの班が結成されました。透明マント班、真空ゆらぎ班、BEC班、超伝導班、量子情報班、計算機班、加速器班の七つの班は展示を、また物理ショー班は実験ショーを行います。
展示を行う七つの班は各班それぞれがテーマを決めて実際に研究室に通いながら何ヶ月にもわたって実験をしてきました。ポスターや実演を通して班員たちが基礎から分かりやすく解説いたします。また小柴ホールにて各班の班長による講演も行われます。物理ショー班は小柴ホールにて一日二度実験ショーを行います。楽しい実験を通して身近な物理を体感していただけるプログラムをご用意しています。
さらに展示をご覧になってもっと深く知りたいと思われた方にはウェブページに掲載している詳しい解説もお薦めです。
小さいお子さんから物理に詳しい方まで、来場してくださった皆さんに物理に楽しく触れていただくことができれば幸いです。それでは PhysicsLab. 2016 をお楽しみください。


皆様のご来場をお待ちしております。
2016.05.06. Fri.
Category: 計算機班
皆さんは「スーパーコンピュータ」というのをご存知でしょうか.詳しくは分からないという方でも,事業仕分けで一躍有名になった「京コンピュータ」はご存知かと思います.その京コンピュータがある理化学研究所 計算科学研究機構で,昨年の夏,及び今年の春にスパコンについてのスクールがあり,計算機班のメンバー3人で勉強に行きました.そして,今年の計算機班の展示に伴い,東大にあるスパコンFX10を使わせていただけることになりました! 今回はスパコンで行われている「並列計算」という手法について,噛み砕いて説明したいと思います.

あなたは,次のような足し算,引き算をする必要があったとします.

31+62-5-75+…

これが4,5個の計算なら簡単にできるでしょう.10個くらいでも(やる気にさえなれば)できるはずです.しかし,これが100個や,もっと増えて1万個になったとすると,とても計算する気にはなりません… ところが,もし一緒に計算してくれる人が1000人見つかったとするとどうでしょう? 一人一人は10個の計算をするだけでいいので,一人で1万個の計算をするよりは随分簡単になりました.
これがスパコンで行われている「並列計算」という手法(の一例)です.つまり,一人で解くことは大変困難でも,問題をより小さい問題に分割して,複数人で協力して別々に解くのです.

並列計算において重要なことが何点かあります.
1点目は「通信」です.先ほどの足し算,引き算の例を考えます.この計算は1000人が別々に計算して終わりではありません.1000人の計算結果を集めて,次の問題(この例では1000個の足し算,引き算)を解かなければなりません.このようにお互いの計算結果を伝え合うことを「通信」と呼んでいます.この通信の時間を短くすることは,効率の良い方法を考えて計算時間を短くすることと同じくらい重要なことです.足し算,引き算の例で言うと,始めの2個の計算が終わっただけで「93になったよ.」といちいち連絡されても,その途中結果を使わないのであれば,それは不要な連絡であり,あなたは(10個全部計算し終わってから教えて…)と思うでしょう.
2点目は「タスクの振り分け」です.再び足し算,引き算の問題で,A君は1桁の計算ばかり,一方,B君は10桁の計算ばかりだとします.するとB君はA君よりもずっと計算時間が必要になってしまうでしょう.全員の計算が終わるまで次の計算が始められないような場合には,一番計算時間のかかる人を待たなければなりませんから,「ある人はとても簡単な計算なのに,別の人はとても難しい計算」という状況は極めて非効率です.裏を返せば,「どの人も同程度の計算時間になるように仕事を振り分ける」方が効率的なのです.この振り分けをいかに上手くできるかが計算時間に大きく影響するのです.

以上,「並列計算」について簡単に説明させていただきました.スパコンの仕組みが少しでも伝わったのでしたら幸いです.スパコンを使ったシミュレーションについては五月祭で展示させていただくので,是非お越しください!



こんにちは!
ついに5月に入り、五月祭まであと2週間ほどとなりました。物理ショー班3回目のブログです。

今回はショーで使う道具をいくつかご紹介します。
まずはこの透明なシート。

これは物理のさまざまな実験に使われるシートです。一見何もないように見えますが…

このように光にかざすと虹色に見えています。それではこのシートにレーザーを当てるとどのようになるのでしょうか?


次はこちら。料理に使うボウルに透明なシートが張っています。まるで太鼓のような形をしていますね。

このシートの上に塩を振り、近くにおいたスピーカーから音を流します。塩に何が起こるのでしょうか?


最後はこの道具。セロハンテープにカラフルな棒がたくさん付けられています。

この道具を使うと、波に関連したとてもきれいな実験ができるのですが、いったいどんな実験なのでしょうか?

結果はすべて五月祭当日、あなたの目でお確かめください!
小柴ホールにてお待ちしています。
こんにちは!
4月も下旬に差し掛かりました。五月祭まであと3週間。どの班も発表に向けて日々熱心に活動を続けています。
今回は、真空ゆらぎ班の活動を少し覗いてみましょう。
やってきたのは、東京大学浅野キャンパスにある武田先端知ビル。この建物の地下2階にあるクリーンルームで、ガラスに金をコーティングして、金のミラーを作ります。

クリーンルームとは、ホコリなどのゴミが一つもないように保たれている部屋のことです。入る前に、体に着いたゴミが部屋の中に持ち込まれないよう、クリーンウェアという専用の作業着を着なくてはなりません。

クリーンルームの様子。実験用の機械が沢山設置されています。



今回私たちが使用したのは、こちらの装置。これはスパッタマシンと呼ばれていて、金属の薄い膜を標的の上に作ることが出来る優れものです。



スパッタマシンは、高いエネルギーを持ったアルゴン原子を金属にぶつけ、その金属を気体にし、さらに電圧を利用して標的に金属を蒸着していきます。
今回の標的は、こちらのガラス板。このように、装置の中にテープを使って固定していきます。




空気が入っていると、綺麗に金属を蒸着することが出来ないので、ポンプを使って空気を抜きます。



待つこと1時間。準備が出来たようなので、いよいよ金属のコーティング開始!
蒸着に使われているアルゴンの原子(プラズマ状態になっている)が紫色に光っている様子を見ることが出来ます。



ガラスに金を載せる前に、一旦クロムの膜で下地を作ります。金をガラスに直接つけてしまうと、簡単に剥がれてしまうらしいです。クロムの膜は20 nm。セロハンテープの1000分の1くらいの厚さです。

クロムの膜を作るのに掛る時間は約1分半。意外と短時間で完成するんですね。
そしていよいよ金を蒸着に入ります!金の膜は200 nmとクロムに比べて分厚いです。その分長い時間がかかり、今回は約6分ほど蒸着を行いました。



いよいよ完成です。装置のふたを開けてみましょう……!




何とも綺麗な仕上がりになりました!!!
カメラが写り込んでしまうほどピカピカです。素晴らしい!

最後に、クロムと金が狙った通りの厚さだけ蒸着されたか、こちらの装置でチェックを行います。



測定中……




どうやら、上手く蒸着が出来たようです!



これで真空ゆらぎ班の実験に必要なものは全て揃いました! 一体どのような結果になるのでしょうか。五月祭に来て、その目で確かめてみてください!

以上、真空ゆらぎ班の活動報告でした。
Category: 計算機班
今回も前回に引き続き現在制作中のプログラムの一部を紹介したいと思います。(五十音順)


【深層学習&遺伝的アルゴリズム】(上野)
最近囲碁でプロを破ったことで話題になった「ニューラルネットワーク」を使ってできるだけオセロの強いAI(人工知能)を実装することを目的にしています。
方針はこんな感じです。
・オセロプログラムを組む。
・まず、形勢値(局面がどれだけ有利かという指標)を石の数から算出し、アルファ・ベータ法というアルゴリズムで5~13手先まで読むことである程度強いAIを作る。
・この「ある程度強いAI」を教師とする機械学習を行い、誤差逆伝播法という手法を使って盤面の形勢値の算出をニューラルネットワーク(人間の脳をまねたモデル)に教え込む。
・最後に、ニューラルネットワークを用いたAI同士を戦わせ、勝った方が生存してニューラルネットワークの内容がわずかに異なる子孫を残す、という規則で世代を進め、AIがどれだけ強くなるかを観察する。
果たしてAIはどれだけオセロが強くなるのでしょうか?五月祭では是非力比べをしてみて下さい!


【太陽系シミュレーション】(杉山)
我々の太陽系は重力多体系と言って、三体(三つのもの)以上からなる系です。太陽と地球のように星が二つだけの二体問題は解析的に(完璧に)解くことができますが、特殊な場合を除いて一般の三体以上の問題は解析的に解くことができないことが知られています。そのため、これらの問題は数値解析(シミュレーション)によって解いていくことになります。
今回は多体系の中でも、身近な太陽系という重力多体系の数値解析的シミュレーションプログラムをC言語というプログラミング言語で書き、OpenGLというAPIでアニメーション出力することで太陽系の天体の振る舞いを調べてみました。


【波】(丹波)
物理をより身近に感じてもらえるよう、波の進行をシミュレーションしました。
このプログラミングでは波をばねで繋がった質点の集まりと捉え、その動きを表しています。グラフはある場所での波の動きを表したものです。
プログラム自体はまだまだ開発中で、より多くの人に波の動きを直感的に感じてもらえるよう、アニメーション作成と微分方程式の精度向上に努めているところです。完成形としては、全ての点の動きを同時に見られるアニメーションになるはずです。


【有限環の探索】(横島)
「環」というものをご存知でしょうか。簡単に言うと、足し算引き算掛け算ができる数学的構造です。代表的なものとしては整数(…, -1, 0, 1, 2, …)があります。ある集合が環かどうかは、元と元の間にある5個ほどのルールを満たすかどうかで決まります。環は物理だけでなく様々な分野に根底として潜んでいます。
整数の元の数は無限個ありますが、有限の環というのもあります。例えば、0と1からなる集合で
0+0=0 0×0=0
0+1=1 0×1=0
1+1=0 1×1=1
を満たすものは環となります。このように、環は+と×の結果を九九表のように書き出すことで確定できます。今回のプログラムでは、ルールを満たす全ての有限環を探し出すことができます。画像では結果しか出ていませんが、展示では表を決めていく過程も見ることができます。ナンバープレースのように表が埋まっていく様子は爽快です。

これも物理学なの?と思われるかも知れませんが、世の中の現象を解き明かそうとするのが物理学。物理学はここまでなんて決まりは無いのです。コンピュータを手に入れてますます広がっていく自由な物理学の世界を、是非五月祭で感じてみて下さい!
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