PhysicsLab. 2016 BLOG

2016年4月の記事

こんにちは!
4月も下旬に差し掛かりました。五月祭まであと3週間。どの班も発表に向けて日々熱心に活動を続けています。
今回は、真空ゆらぎ班の活動を少し覗いてみましょう。
やってきたのは、東京大学浅野キャンパスにある武田先端知ビル。この建物の地下2階にあるクリーンルームで、ガラスに金をコーティングして、金のミラーを作ります。

クリーンルームとは、ホコリなどのゴミが一つもないように保たれている部屋のことです。入る前に、体に着いたゴミが部屋の中に持ち込まれないよう、クリーンウェアという専用の作業着を着なくてはなりません。

クリーンルームの様子。実験用の機械が沢山設置されています。



今回私たちが使用したのは、こちらの装置。これはスパッタマシンと呼ばれていて、金属の薄い膜を標的の上に作ることが出来る優れものです。



スパッタマシンは、高いエネルギーを持ったアルゴン原子を金属にぶつけ、その金属を気体にし、さらに電圧を利用して標的に金属を蒸着していきます。
今回の標的は、こちらのガラス板。このように、装置の中にテープを使って固定していきます。




空気が入っていると、綺麗に金属を蒸着することが出来ないので、ポンプを使って空気を抜きます。



待つこと1時間。準備が出来たようなので、いよいよ金属のコーティング開始!
蒸着に使われているアルゴンの原子(プラズマ状態になっている)が紫色に光っている様子を見ることが出来ます。



ガラスに金を載せる前に、一旦クロムの膜で下地を作ります。金をガラスに直接つけてしまうと、簡単に剥がれてしまうらしいです。クロムの膜は20 nm。セロハンテープの1000分の1くらいの厚さです。

クロムの膜を作るのに掛る時間は約1分半。意外と短時間で完成するんですね。
そしていよいよ金を蒸着に入ります!金の膜は200 nmとクロムに比べて分厚いです。その分長い時間がかかり、今回は約6分ほど蒸着を行いました。



いよいよ完成です。装置のふたを開けてみましょう……!




何とも綺麗な仕上がりになりました!!!
カメラが写り込んでしまうほどピカピカです。素晴らしい!

最後に、クロムと金が狙った通りの厚さだけ蒸着されたか、こちらの装置でチェックを行います。



測定中……




どうやら、上手く蒸着が出来たようです!



これで真空ゆらぎ班の実験に必要なものは全て揃いました! 一体どのような結果になるのでしょうか。五月祭に来て、その目で確かめてみてください!

以上、真空ゆらぎ班の活動報告でした。
Category: 計算機班
今回も前回に引き続き現在制作中のプログラムの一部を紹介したいと思います。(五十音順)


【深層学習&遺伝的アルゴリズム】(上野)
最近囲碁でプロを破ったことで話題になった「ニューラルネットワーク」を使ってできるだけオセロの強いAI(人工知能)を実装することを目的にしています。
方針はこんな感じです。
・オセロプログラムを組む。
・まず、形勢値(局面がどれだけ有利かという指標)を石の数から算出し、アルファ・ベータ法というアルゴリズムで5~13手先まで読むことである程度強いAIを作る。
・この「ある程度強いAI」を教師とする機械学習を行い、誤差逆伝播法という手法を使って盤面の形勢値の算出をニューラルネットワーク(人間の脳をまねたモデル)に教え込む。
・最後に、ニューラルネットワークを用いたAI同士を戦わせ、勝った方が生存してニューラルネットワークの内容がわずかに異なる子孫を残す、という規則で世代を進め、AIがどれだけ強くなるかを観察する。
果たしてAIはどれだけオセロが強くなるのでしょうか?五月祭では是非力比べをしてみて下さい!


【太陽系シミュレーション】(杉山)
我々の太陽系は重力多体系と言って、三体(三つのもの)以上からなる系です。太陽と地球のように星が二つだけの二体問題は解析的に(完璧に)解くことができますが、特殊な場合を除いて一般の三体以上の問題は解析的に解くことができないことが知られています。そのため、これらの問題は数値解析(シミュレーション)によって解いていくことになります。
今回は多体系の中でも、身近な太陽系という重力多体系の数値解析的シミュレーションプログラムをC言語というプログラミング言語で書き、OpenGLというAPIでアニメーション出力することで太陽系の天体の振る舞いを調べてみました。


【波】(丹波)
物理をより身近に感じてもらえるよう、波の進行をシミュレーションしました。
このプログラミングでは波をばねで繋がった質点の集まりと捉え、その動きを表しています。グラフはある場所での波の動きを表したものです。
プログラム自体はまだまだ開発中で、より多くの人に波の動きを直感的に感じてもらえるよう、アニメーション作成と微分方程式の精度向上に努めているところです。完成形としては、全ての点の動きを同時に見られるアニメーションになるはずです。


【有限環の探索】(横島)
「環」というものをご存知でしょうか。簡単に言うと、足し算引き算掛け算ができる数学的構造です。代表的なものとしては整数(…, -1, 0, 1, 2, …)があります。ある集合が環かどうかは、元と元の間にある5個ほどのルールを満たすかどうかで決まります。環は物理だけでなく様々な分野に根底として潜んでいます。
整数の元の数は無限個ありますが、有限の環というのもあります。例えば、0と1からなる集合で
0+0=0 0×0=0
0+1=1 0×1=0
1+1=0 1×1=1
を満たすものは環となります。このように、環は+と×の結果を九九表のように書き出すことで確定できます。今回のプログラムでは、ルールを満たす全ての有限環を探し出すことができます。画像では結果しか出ていませんが、展示では表を決めていく過程も見ることができます。ナンバープレースのように表が埋まっていく様子は爽快です。

これも物理学なの?と思われるかも知れませんが、世の中の現象を解き明かそうとするのが物理学。物理学はここまでなんて決まりは無いのです。コンピュータを手に入れてますます広がっていく自由な物理学の世界を、是非五月祭で感じてみて下さい!
Category: 超伝導班
こんにちは、今回は超伝導班の更新です。気づいたら五月祭まで1か月切りましたね! どこの班も追い込みをかけて実験や展示の準備を行っているところです。今日は私たち超伝導班の方で今行っている実験について少し紹介したいと思います。webページでの班の内容紹介の方にも少し説明しましたが、超伝導の状態になると、超伝導体の中の全体の電子が一つの大きな"波"のように振る舞うようになって、それによって電気抵抗がゼロになるということ以外にもたくさんの興味深い現象が生じてくるのでした。現在は、その説明文の最後に説明している「ジョセフソン効果」について実験を行っています。

まずここでは少し、ジョセフソン効果について説明を加えておきましょう。ジョセフソン効果は、ふたつの超伝導体を用意してその間を何か超伝導にはならないもので分け隔てた「ジョセフソン接合」というものを作ると、いわばそれぞれの超伝導体の「波」のゆれ方の違いに応じた電流が勝手に流れる、という現象です。「勝手に流れる」というのは、普段電流を流すためには電池や電源などを使って電圧をかけますが、それがジョセフソン接合では電圧をかけなくても「波」のゆれ方の違いを互いに揃えようとして電流が流れるのです! この電流は超伝導状態で生じている電子のペア=「クーパー対」が担っていて、そのクーパー対がふたつの超伝導体の間を隔てている障壁をすり抜ける「トンネル効果」によって流れていると考えられています。ジョセフソン接合自体は応用例も盛んで、それを使用した回路を作ることで精密な磁場の測定や電圧の測定に使われていたりもします。

現在私たちの班の方では、ジョセフソン接合を自分たちの手で作成して効果を見ようとしているところです。実験で使用しているふたつの超伝導体は前回も紹介した高温超伝導体YBCOと、金属の超伝導体であるスズです。両方の超伝導体は厚さがおよそにして、その間を超伝導にならない金の薄い膜で隔てることでジョセフソン接合を作成しています。
…と言葉にしていうのは簡単ですが、実際のところ作成してみると非常に難しいものです。今回の実験でコントロールしているのはナノメートル=1cmのなんと1000万分の1の大きさの世界です。そんな接合をうまく作成するのは、現在も引き続き何度も行っていますが難しく、まだ満足できるような結果は出ていません。果たして五月祭にまで結果が出るでしょうか…? 最終的にどうなったか気になった方は当日ぜひ足を運んでみてください、より詳しく分かりやすい説明も用意してお待ちしております!
2016.04.17. Sun.
Category: BEC班
こんにちは、今回はBEC班の第3回目です。
前回は、極低温で現れる不思議な現象「BEC」を実現するための手法、「レーザー冷却」を紹介しました。今回は私たちBEC班が実際に行っている実験の様子を少し紹介します。

冷やそうとしているのは、ルビジウムと呼ばれる原子の気体です。レーザー冷却で極低温に冷やすだけでなく、それを磁石の力を借りて一点に集めることを目標にしています。このようにレーザーと磁石で冷やして集めるこの方法は、磁気光学トラップ(MOT)と呼ばれています。



上の写真は実験を行っている光学台の上の様子です。たくさんの器具が置かれているのが分かると思いますが、それらはミラーやレンズといった光学機器です。レーザー光源から出たレーザーを途中で様々な調整を行いつつ、ルビジウムがある場所まで光学機器で導いていきます。具体的には、レンズでレーザーの大きさを変えたり、PBSと呼ばれるものでレーザーを2つに分けたりしています。



最終的に上の写真のような場所にたどり着きます。少し見えにくいですが、中心の辺りにガラスのセルがあり、その中にルビジウムの気体が入っています。ここにレーザーが入るように調整します。実際には、銅線を円形に巻いたコイル2つを、セルを挟むように置き、磁石の力も生み出せるようにしておきます。磁石の力を発生させていないときでもセル内にレーザーの明かりは見えますが、コイルのスイッチを入れると、ボオッとひときわ明るい光を放つ球が現れます。その輝きを放つのが、極低温まで冷やされたルビジウム原子なのです。まだBECには及びませんが、それでも絶対零度からおよそ0.0001℃上という、とてつもなく低い温度になっています。

今はBECにもつなげやすいMOTのやり方に挑戦しています。当日は実際のMOTの動画などもお見せできると思いますのでお楽しみに!
今回のブログ記事は、少し物理のお話から離れたものです。内容は「フィードバック」について。フィードバックは、現代の科学技術で沢山の応用がなされています。もちろん、私たち真空ゆらぎ班が行っている実験も、フィードバック技術を利用していますヨ!
それでは、具体例を通して、フィードバックとは一体どういうものなのか説明していきましょう。

日本の道路の速度制限は何km/hかご存知ですか? 道路標識などによって指示がなければ、普通60km/hです。これ以上速く自動車を運転するとスピード違反になってしまいます。ですが、スピード違反が怖いからといって、ノロノロ運転をしているようでは時間が余計にかかって仕方ありません。なるべく60km/hの同じ速さで運転したいところですね。


そうはいっても、同じ速さで運転をするというのは案外難しいことだったりします。道路を進んでいると、上り坂だったり下り坂だったりで、自動車の速さが変わってしまったりするからです。


そこで、なるべく60km/hのまま走り続けるように、自動車の速さに応じてアクセルを調節したりブレーキを踏んだりするわけです。これこそが、「フィードバック」です。


もう少し抽象的な言い方をすれば、フィードバックとは、ある系の状態に対して出力される信号に応じた、適当な入力を対象にしてやることで、系の出力を制御すること。
言葉では単純ですが、案外難しいのがフィードバック。失敗すると悲惨なことになります。


初めは60km/hで走っていた自動車ですが、何らかの原因によって少し速さが遅くなってしまいました。60km/hに速さを保つため、アクセルを踏み込み加速します。ですが、あまりにも大きく加速してしまったため、60km/hが目標だったはずなのに、70km/hまで速さが上がってしまいました。


これは大変です!スピード違反で捕まってしまいます。慌ててブレーキを踏み、速さが60km/hになるよう減速を試みました。しかし、慌てていたため予想よりも減速してしまい、今度は60km/hを下回る50km/hまで速さが落ちてしまいました。


これではフィードバックの意味がありませんね。自動車の速さに応じて、上手くコントロールしないと目標の60km/hには届きません。こういった状態を発振するなどといいます。発振せずに、安定なフィードバックを行うことが大切なのです。

フィードバックについて、理解していただけたでしょうか。
五月祭当日は、実際に私たちの実験装置に利用されているフィードバックのお話も予定しています! 5/14、5/15は是非五月祭 PhysicsLab. 2016へ!
2016.04.12. Tue.
Category: その他
こんにちは。全体統括です。本日、ウェブサイトを公開いたしました。このブログ同様、PCとスマホのどちらでもご覧いただけます。
日時や場所の他、各班の内容の解説なども掲載しています。今後ますます充実した内容にしていく予定です。是非アクセスしてみてください。

カレンダーを見てみると五月祭当日まで残すところ約一ヶ月。各班着々と準備が進んでいるようです。5月14日(土)、15日(日)は東京大学理学部1号館 PhysicsLab. 2016 へ!
2016.04.09. Sat.
こんにちは。今回は3回目の透明マント班の記事になります。前回の記事では、リング状の物体を用いて、普通のガラスと透明マントの違いを、数値シミュレーションのアニメーションによって見ていただきました。まずは、それについての復習をしてみましょう。

前回は赤と青の縞々の線を用いて光の進み方について見てみました。それを、よりわかりやすい図で見てみましょう。

これは、真空中で光が進む様子を表しています。それぞれの黄色い線は光線を表していて、矢印の向きに光が進んだんだと考えてください。例えば、暗い部屋の中で懐中電灯を灯すと、光の道筋が見えるかもしれません。あるいは、太陽が燦々と輝く日中にカーテンを閉めると、カーテンの隙間から太陽光線が見えることでしょう。上の図の黄色の線はそれらの光線を表した模式図になっています。

さて、次に、前回の記事で見せた、透明マントを用いた時の光線の模式図を見てみましょう。

リングの形をした透明マントの中には赤色の物体が置いてありますが、周りに置いた透明マントのおかげで、物体に光が当たることはなく、何もない真空中の時と同じように光が進んできたように見えるわけです。リングの中をよく見ていただけるとわかると思いますが、光線はリングに沿って曲がって進んでいるのです。このように曲がった光の経路(光路)を作り出すことによって、透明マントは実現できるのです。

それでは、このように曲がった光路を実現するにはどうしたら良いのでしょうか。

皆さんもよく知っているように、光はまっすぐに進みます。それが自然の摂理なのです。つまり、曲がった光を作り出すことは、一見、自然の摂理に反しなければならないのです。一方で、皆さんは光が「折れ曲がる」現象はよく知っているでしょう。

これは、光の屈折と呼ばれる現象で、屈折率の違う物質中に光が入射するときに起きる現象です。実は、光の屈折は、カメラのレンズやメガネのレンズなど、様々なところで利用されている、とても身近な現象なのです。そしてこの屈折現象を用いることによって透明マントを実現することができるのです。なんだか夢みたいな透明マントの話も、少し身近に感じてきたでしょうか。

それでは最後に、光の屈折現象を用いて透明マントを実現する方法を説明しましょう。先ほどは屈折率の違う2つの領域での光の進み方を見ました。今度は、屈折率の異なる領域を10個用意してみましょう。

10個の領域を進む最中、光は屈折を繰り返します。すると、図のように滑らかに曲がっているように見えてくるのです。さらにこの領域を、100個、1000個、…とどんどん細くしていけば、光の折れ曲り方はどんどん滑らかになっていき、「曲がった」光が実現できてしまうのです。そして、「曲がった」光を作り出すことが、上のような透明マントの実現につながるのです。
こんにちは。
物理ショー班2回目のブログは、今年のショーのテーマである波と振動についてです。

「波」と聞くと海の波を想像する方も多いかと思いますが、物理の世界では他にもさまざまなところに「波」が登場します。

たとえば、音は空気の振動が伝わっていく現象で、波の一種です。ギターなどの弦楽器を弾くときを考えてみると、弦の振動によって周りの空気の振動が引き起こされ、それが音として伝わります。音が振動であることは、喉に手を当てながら声を出すことでも確かめることができます。私たちは空気の振動を音として感じているのですね。
また、光も波の性質(波動性)を持っています。とはいえ、音のように簡単に確かめられるものではありません。光の波動性を確かめる有名な実験の1つに「ヤングの実験」があります。これは、光源から出た光を2つのスリットに通すとスクリーンに縞模様が見えるという実験で、それぞれのスリットから出た光の波が干渉することで説明することができます。


最近の話題では、アメリカにある検出器「LIGO(ライゴ)」が重力波の検出に成功した、という発表が2016年2月になされました。このブログでは重力波について詳しく説明することはできませんが、重力波は「空間のゆがみ」が波として伝わる現象で、アインシュタインの一般相対性理論によってその存在が予言されてきました。重力波はブラックホールが形成される過程などで生じると考えられています。LIGOによる重力波の検出はアインシュタインが一般相対性理論を発表してからちょうど100年ということもあり、大きく報道されました。

このように「波」は物理のいたるところに顔を出しますが、これらは物理に登場する波のほんの一部に過ぎません。PhysicsLab. 2016物理ショーでは「波の世界を見てみよう」をテーマに、光や音などの身近な波から最先端の物理まで、実験を通して体感していただけるようなプログラムを用意しております。詳細は次回のブログでご紹介します。ぜひお楽しみに。
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