量子情報班Quantum Information
皆さんは、「量子力学」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
このページに辿り着いた皆さんなら、聞いたことくらいはあるかもしれません。
中には、それが小さな世界の不思議な性質を探る学問であることを知っている人もいるでしょう。
では、「量子コンピュータ」はどうでしょう。これも名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
私たち量子情報班は、量子力学と(量子コンピュータの研究を含む)量子情報科学という分野について
「聞いたことはあるけどよくわからない方」や「より詳しく知りたい方」
向けに展示を行います。ポスターと班員による解説で、少しでも理解を深め、
興味を持ってもらうように工夫を凝らしましたので、ぜひお越しください。
マクロな世界とミクロな世界
私たちの身の回りには様々なもので溢れています。椅子や机、ボールとバット、
それに今皆さんがみているパソコン(あるいはスマホやタブレット)は全て私たちに馴染みのあるものです。
日常生活の中で、これらのものがどのように振る舞うかについて私たちは
直観的によく理解しています。例えば、キャッチボールをするときには
相手がボールを投げた直後にボールの軌道をだいたい予測し捕球出来る場所に
動きますね。
この様な、私たちが日常的に見ることができるような大きなもの
(以下ではこれをマクロなものと言う)の振る舞いについて
考える学問を古典物理学と言います。
では、原子や電子のように、私たちが日常的に見ることのできないくらい
小さなもの(以下ミクロなものという)は
どのように振る舞うのでしょうか。
ものは大きくても小さくても同じように振る舞うだろうと思う人も
多いかもしれません。しかし実際には、ミクロなものは、
私たちのよく知っているマクロなものとは全く異なった不思議な振る舞いを
見せるのです。
この振る舞いの違いを理解するには、
私たちがマクロなものの振る舞いを考えるときに(無意識のうちに)
持っている様々な前提を取っ払う必要があります。
私たちの持っている直観の通用しない、
全く別の枠組みを使う必要があるのです。
20世紀初頭に生まれた、このようなミクロなものの振る舞いを記述する学問を
「量子力学」と言い、ミクロなもの特有の振る舞いを「量子性」といいます。
量子性の情報処理への利用
20世紀後半、ミクロな世界のことがある程度よくわかってくると、
その不思議な性質(量子性)を利用して、
マクロなものではできなかったことをやろうという試みが始まります。
特に情報科学の分野では、量子性を持ったものを使うことで、
より「良い(効率的な、あるいは安全な)」計算や情報通信をしよう
という挑戦が盛んに行われてきました。
その代表例が量子コンピュータです。
量子コンピュータはある種類の計算(例えば大きい自然数の因数分解など)を、
古典的なコンピュータ(現在普及している、量子性を持たないものでできたコンピュータ)
よりもずっと効率的に行うことができると言われています。
他にも、量子性を持ったものを利用して盗聴者から通信を守る量子暗号という技術など、
様々な応用があります。
このように、情報処理の観点からも、「量子性を持ったもの」と 「量子性を持たないマクロなもの」には違いがあることがわかってきています。
物理と情報の関わり
今見た通り、情報処理にはそれを行う「もの」が必要なので、 情報科学を(ものの振る舞いを調べる)物理学と切り離して考えることはできません。 その一方で逆に、物理を考える際にも、情報は必要不可欠な概念なのです。 これはどういうことなのでしょうか。
物理学に限らず、全ての自然科学は人間が自然に対して実験をして 得られた結果に基づいた学問です。実験では、いろいろな条件をコントロールした上で、 ものの振る舞いを観測・測定します。この、観測や測定は、そもそも 「観察対象(例えばボール)から、それについての情報(例えばボールの位置や速度) を引き出すこと」であると言えます。従って、物理学で扱われることは必ず、 測定というプロセスを通して情報処理と関係しているのです。
特に、ミクロな世界の物理(量子力学)のうち測定や情報と関わりの深い研究は、 「量子情報科学」と呼ばれる分野を構成しています。 (「量子性の情報処理への応用」に関わる研究も量子情報科学に含まれます。)
情報と関係の深い物理の例(分野の紹介。難易度は少し高いです。)
ミクロなものに対しての測定は、(以下に書く二つの意味で)マクロな世界ほど
都合がよくはありません。したがって、測定について特に詳しく、注意深く考える必要が
あります。その際に重要な観点が「測定で得られる情報」なのです。電子の位置や
速度を測定する例で見て行きましょう。
第一に、電子の位置と速度を同時に正確に測定することはできません。
これは技術的に難しいということではなく、ミクロな世界がそういう不思議な
仕組みになっているために原理的に不可能なのです。ミクロな世界で測定によって得られる
情報に制限がつくのです。
第二に、どういう測定をしたとしても必ずそれによって電子の状態がかき乱され、
測定前と測定後で状態がかわってしまいます。これも、やはり原理的な制約であり、
例えば電子の位置について正確に測定を行うと測定前の電子の速度についての情報は
完全に失われてしまうのです。
情報との関わりが深いのはミクロな世界だけではありません。
ミクロ・マクロにかかわらず物理学の情報との関わりは深く、
その関わりを詳しく見てゆくことで自然についてより深い理解を得られます。
例えば、物理の一分野である熱力学・統計力学は平衡状態にある大きな系を扱う学問でした。
しかし近年、その分野の重要な量である「エントロピー」を情報理論的な背景に基づいて
拡張し、非平衡状態の系や小さな系、測定・制御のある系についても熱力学を拡張しようと
いう研究が進められています。これは、「情報熱力学」や「量子熱力学」と言われる
分野です。
このように、情報と関わる物理学は大きな広がりを持ち、 今後もさらなる発展が期待されているのです。
展示内容
量子力学の基礎や量子情報の様々なトピックについて、ポスターを使って説明する
予定です。ポスターの内容は作成が完了したらここに掲載します。
「量子力学の枠組み」や「量子性とは何か」に興味を持った方、
このページの他の内容に興味を持った方、
また、量子情報分野に興味のある方を歓迎しています。ぜひお越しください。