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特殊相対性理論
物理を習ったことのない人でも「相対性理論」という言葉は誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。ここでは、相対性理論の中でも慣性系のみを扱う「特殊相対性理論」について紹介したいと思います。
最終更新: 2021.05.14 11:58

特殊相対論

特殊相対性理論における「時空」とは

ニュートン力学、あるいは私達が普段直感的に感じている世界ではどの場所にいる人も同じ時間を共有しています。「3030秒経った」と言われたとき、その場にいる人全員が同じ「3030秒」経ったと感じます。全員で同じように動く時計を共有しているイメージです。普段はこの考え方で生活できるのですが、光の速度に近い速さで動いているとこのような「絶対時間」「絶対空間」の考えが成り立たなくなることが知られています。そこで登場するのがアインシュタインの相対性理論の考え方です。特殊相対性理論によると、時間は絶対的なものではなく、AさんとBさんで別々に作動する時計に従ってそれぞれ時間が流れています。「Aさんにとっての時間」のように時間は客観的なものではなくAさんにとって主観的なものとして扱われます。 また、時間と空間は別のものではなく対等に扱われるもので、3次元の空間座標に時間の座標を加えた4次元座標を扱うことも特徴的です。時間と空間を対等に扱うとはどのようなことか、軽く見てみましょう。いきなり4次元時空というとイメージしにくいので、物質はxx軸上を動く、つまり一次元の運動をしていると仮定しましょう。この時、横軸を物質の位置(xx座標)、縦軸をctctとしたグラフを考えます。ccは光の速さ、ttは時刻です。時間をそのまま扱うと位置座標と単位が異なって不便なので速度の定数ccをかけて単位を揃えています(光の速度を定数としてよいことの説明は「光速度不変の原理」の章で行います)。ここでは「時間と空間を対等に扱ってグラフにしたいけれど、単位は揃えたいから時間に単位つきの定数を掛け合わせた」と思っておけば問題ありません。 簡単のため、時刻t=0t=0のとき物質がx=0x=0に位置しているとします。このグラフは「ある物質がいつどこにいるか」ということを図示したものと言えます。例えば、注目する物質が光であった場合を考えます。この時、11秒経つと縦軸ctctc×1=cc×1=cだけ進み、光は正負両方に飛んでいくとすると横軸xx±c×1=±c±c×1=±cだけ進みます。よって、光がこのグラフ上で描く軌跡は図のようになります。注目する物質が光よりも遅い粒子であった場合、このように光が描く二つの直線に挟まれた領域に軌跡を描きます。このような時空座標で粒子が動く経路は「世界線」と呼ばれています。 このようにして時間と空間を対等な座標とするのが特殊相対性理論の基本的な考え方です。直感でイメージしにくいこの特殊相対性理論の概念がどのように作用するのか、ということをこれからの章で見ていきます。

相対性原理

ニュートンの第一法則「外力を受けていない全ての物質は静止、または等速直線運動をする」が成り立つような系を慣性系といいます。そしてこのように定義される慣性系に対して、「全ての慣性系で物理法則が同じ形式で表される」という原理を一般に「相対性原理[1]」と呼びます。この相対性原理は特殊相対性理論に限ったものではなく、ニュートン力学にはニュートン力学の相対性原理、特殊相対性理論には特殊相対性理論の相対性原理があります。「原理」と名前がつけられているように、これは物理法則というよりも「物理法則を記述する式は相対性原理が成り立っている必要がある」という「要請」と考える方がイメージがしやすいです。ニュートン力学では、お馴染みのma=Fma=Fの形で運動方程式が記述されていますが、これはニュートン力学のどの慣性系でも成り立つものです。例えば、ある慣性系Sで運動方程式が成り立っていたらSに対してvの速さで等速直線運動している慣性系S'(電車に乗っている人からみた世界をイメージすると分かりやすいです)でも運動方程式が成り立つということです。 このような相対性原理は慣性系同士の変換則を用いることで確かめることができます。ニュートン力学での慣性系の変換則はガリレイ変換と呼ばれています。ニュートンの運動方程式はガリレイ変換のもとで不変なのですが、電磁気学で使われるマクスウェル方程式という運動の方程式はガリレイ変換をすると形が変わってしまい、相対性原理が成り立たなくなってしまします。相対性原理は成り立っている必要のある「要請」なので、マクスウェル方程式かガリレイ変換のどちらかを修正する必要があるとわかります。結論を言ってしまうとガリレイ変換が修正の必要があるとわかり、その結果として特殊相対性理論が導かれます(その経緯は次章でみることにします)。

光速度不変の原理

特殊相対性理論で相対性原理と並んで重要なのが光速度不変の原理です。光速度不変の原理とはその名の通り、光の速度はどの慣性系から見ても一定だという原理です。電車に乗っている人が投げたボールを電車に乗ってない人が見たら、実際に電車に乗っている人が投げたスピードよりずっと速く見えるはずなので、これは直観からは大きく離れることです。 にわかには信じがたいこの原理はマイケルソン・モーリーの実験という実験によって確立されました。マイケルソン・モーリーの実験とは果たしてどのようなものであったのか紹介したいと思います。

1818世紀頃、光は干渉や回折といった性質を持つため波だと考えられていました。そうすると、音が空気を媒介して伝わるのと同じように光にも媒質があるはずです。このようにして考えられた光の媒質は「エーテル」と名付けられました。このエーテルが存在するどうか確かめたのがマイケルソン・モーリーの実験です。音が風の影響でその速度を変えるように、光がエーテルを媒質とするならば「エーテルの風」がある場所では光の速度が変わるはずです。地球は秒速3030km/sほどで公転しているため、宇宙空間に満ちるエーテルも地球の静止系(つまり私達の視点)で見たら秒速3030km/sほどの風を吹かせてると考えられます。そこで、同じ光源から発射し、エーテルの風に対して平行な方向と垂直な方向それぞれを通った光二つを干渉させてその干渉縞を観察することによってエーテルの風が光の速度を変えたかどうかを確かめるというのがマイケルソン・モーリーの実験の概略です。この実験についての詳しい説明や計算は解説記事のpdfの22章で述べてあるので興味を持った方はぜひご覧ください。

このようにして干渉縞の様子を実験によって確かめようとしたのですが、干渉縞は発見されませんでした。すなわち、光の媒質「エーテル」は存在しないと結論づけられることとなりました。エーテルが存在しないという驚くべき結論から、「光の速さはどの慣性系から見ても一定」という光速度不変の原理が導かれました。光速度不変の原理はガリレイ変換のもとでは成り立たないため、マクスウェル方程式は正しくガリレイ変換が修正されることとなりました。

ローレンツ変換

「相対性原理」と「光速度不変の原理」を組み合わせることでガリレイ変換に修正が必要であると分かりました。そこで、これら二つの原理を満たすような新たな慣性系同士の変換を考えます。ある慣性系をSS系、SS系に対して+x+x方向に速さvvで動いている慣性系をS系とし、この二つの慣性系間の変換を求めます。ここでいう変換とは、とある事象がS系での点(ct,x,y,z)で起こったとし、同じ事象をS系から見たときの点を(ct,x,y,z)とした時、これらの2(ct,x,y,z),(ct,x,y,z)の間の関係は数式を使ってどのように表されるのか、ということです。

  これを具体的に光速度不変の原理を使って計算していくと、 ct=11(vc)2(ctvcx) x=11(vc)2(xvcct) y=y z=z となることが分かります。これこそが新しい変換の式であり、ガリレイ変換に代わってローレンツ変換と呼ばれています。このローレンツ変換は、三次元空間に時刻tに光の速度cを掛け合わせた時間座標ctを加えた四次元時空の座標(ct,x,y,z)での変換です。また、このようにしてローレンツ変換で互いに移りあう4次元のベクトルの組をローレンツベクトルと呼びます。

私達が普段暮らしているときにガリレイ変換が正しいように感じるのは光の速さcに比べて私達が移動する速さvが十分小さいからです。実際に、先ほどのローレンツ変換の式でvcが微小のときガリレイ変換に帰着することがわかります。

ここで、4次元時空の座標(ct,x,y,z)3次元空間の時と同じように、4次元空間の中の「位置」を指定するものと解釈することができます。では、このように定義される4次元時空の二つの位置の間の「距離」は一体どのように決まるのでしょうか。我々は普段3次元空間の中で生活していて、そこで点と点の間の距離を測ることができます。これを時間方向にも拡張する訳です。 3次元空間で2点間の距離を知りたい時は定規をあててその目盛りを読めばその距離を測ることができます。しかし、時間も含めた4次元空間だとどうでしょうか。3次元空間と同じように時空内の2点を定規で測る、という訳にはいきません。そこで、2点の座標から「三平方の定理」のような感じで距離を求めます。 3次元空間内の点(x,y,z)と原点の距離の二乗は s2=x2+y2+z2 と表すことができます。これと同じように、4次元時空の点(ct,x,y,z)と原点の距離の二乗を s2=(ct)2+x2+y2+z2 と定めます。この時、時間座標の項の符号が負になっていることに注意しましょう。こうしてs2を定めると、s2がローレンツ変換によって不変であることがわかります(先ほどのローレンツ変換の式を代入するとすぐに確かめることができます)。このように、時間座標の項の符号の向きを反転させることで計算する上で都合が良くなります。表記を簡単にするため、座標成分(ct,x,y,z)を添え字を用いて(x0,x1,x2,x3)と表すことにします。

この四次元時空内にある2点を考えたとき、その二点のS 系におけるそれらの座標成分の差を(Δx0,Δx1,Δx2,Δx3)S系における差を(Δx0,Δx1,Δx2,Δx3)と表すことにすると、先ほどのローレンツ変換の式より Δs2(Δx0)2(Δx1)2(Δx2)2(Δx3)2 なる量が変換の前後で変わらない、つまりΔs2=Δs2であることが分かります。先ほどs2がローレンツ変換によって変化しないことを見ましたが、「座標の差」は座標と同じ変換を受けるためΔs2がローレンツ不変であるのはすぐに分かります。ここで、下付き添え字 dx0dx0,dx1dx1,dx2dx2,dx3dx3 を導入することで2点間の距離を無限小にした距離ds2ds2=dx0dx0+dx1dx1+dx2dx2+dx3dx3 と表されます。ここで、ds2を何度も上のように足し算の項を全て書いて表すのは大変なので「一つの項の中で、上付きと下付きの同じ添え字のペアが重なっている場合、それに関して和をとる」というルールを設けます。これは「アインシュタインの縮約規則」と呼ばれる記法で、今後出てくるいくつもの複雑な式を簡潔な形で表すのに非常に便利で重要な記法です[2]

今回の場合、アインシュタインの縮約規則を用いるとds2=dxμdxμと表すことができます。。上付き添え字と下付き添え字の関係はミンコフスキー計量ημνを用いることで、ημνdxν=dxμと表すことができます。このように添え字のついた量を「テンソル」と呼びます。テンソルに関する詳しい解説は解説記事のpdfの3章に書いてあります。テンソルの形にしておくと方程式の扱いが簡単になるというメリットがあります。

ここまでで考えたローレンツ変換のもとでニュートンの運動方程式を再考してみると、ニュートンの運動方程式はローレンツ変換のもとでは不変ではないと計算できるため、運動方程式を修正する必要が出てきました。 粒子が感じている時間、すなわち「粒子の静止系で見たときに経過する時間」はその定義から、粒子の視点によって決まる量であるので観測者の静止系に依存せずに決まります。よってこれはローレンツ変換で不変な量であり、固有時と呼ばれ、τという文字を使って表されています。 固有時を具体的に式で表してみましょう。先ほどのローレンツ不変量 ds2=(cdt)2+(dx1)2+(dx2)2+(dx3)2 を粒子の静止系S'で見ると、粒子は静止しているのでdx1=dx2=dx3=0です。よって、 ds2=(cdt)2+(dx1)2+(dx2)2+(dx3)2=(cdt)2 です。このdtこそが固有時であるので、固有時の微小量dτdτ2=dt2=dt2(1(vc)2) と表すことが出来ると分かります。ここから先、しばしば「反変」「共変」という言葉が出てきますが、ひとまずは「下付き添え字をもつ量が共変」「上付き添え字を持つ量が反変」と呼ぶものだと思っておいてください。詳しくは解説記事のpdfの3.4節にて説明されているので、気になった方は是非そちらをご覧ください。この固有時を用いることでローレンツ不変な「力」と「運動量」に相当するベクトルが導けます。これらは四元運動量、四元力と呼ばれる反変ベクトルで、次のように表されます。 pμ=(mc1(vc)2,m1(vc)2v), fμ=dpμdτ これらを使って計算することで、ローレンツ変換の元で不変な運動方程式 md2xμdτ2=fμ を得ることができます。

突然出てきた四元運動量、四元力というベクトルですが、これらは運動方程式を導くためだけのベクトルという訳ではなく、物理的な意味を持ちます。実はこの四元運動量の第0成分、すなわちmc1(vc)2は粒子のエネルギーの1c倍に、また、残りの成分すなわちm1(vc)2vは粒子の運動量になっています。粒子のエネルギーをEとすると、四元運動量の第0成分がE1c倍に等しいことから E2c2=(mc1(vc)2)2 です。ここで、四元運動量の空間成分m1(vc)2vは粒子の運動量になっているため、このベクトルの大きさを|p|とします。これを用いて先ほどのエネルギーの式を変形すると E2=(mc2)2+c2|p|2 であることが分かります(少し計算するとすぐに確かめることが出来ます)。粒子の運動量が0 のとき、この式はE=mc2となり、恐らく一度は目にしたことがあるであろうかの有名な式の形になります。

また、運動方程式を導くのと同じようにしてマクスウェル方程式をローレンツ共変の形にすることも出来ます。 ローレンツ共変なマクスウェル方程式はこのように表されます。 λFμν+μFνλ+νFλμ=0 νFμν=1cϵ0jμ ここでは最終的な方程式の形のみ記しておきました。導出や細かい説明は解説記事のpdfの3.6節に書いてあるので、詳しくはそちらをご覧ください。

ここで出てくるという記号は偏微分と呼ばれるもので、ある関数の中で変数が複数ある場合にある一つの変数にのみ注目し、他の変数を定数のように扱って微分することです。注目する変数をxとした時、xで関数fを偏微分するとは、fxのように表します。これを略記してxfと表すこともあります。例えば、f=x2y3の時、これをxについて偏微分すると(x2y3)x=x(x2y3)=2xy3となります[3]

参考文献

[1] 風間洋一(2017)『相対性理論入門講義』. 培風館

記事で用いた画像にはいらすとやの画像を用いました。


  1. これよりも更に要請の強い「一般相対性原理」を単に「相対性原理」と呼ぶこともあるのですが、 ここでは慣性系に限ったこの要請を「相対性原理」と呼ぶことにします。 ↩︎

  2. 今回の場合だけだと「を使えば済む話なのにどうしてわざわざ新しいルールを作るのか」と疑問に思うかもしれませんが、これから先、例えば一般相対性理論などで式が複雑になってくるとがいくつも必要になりアインシュタインの縮約規則を使うことで式を簡潔に表せるありがたみが表れてきます。とりあえずは「そんなルールがあるのか」とだけ思っておけば問題ありません。 ↩︎

  3. サムネイルはGerd AltmannによるPixabayからの画像です。 ↩︎