Physics Lab. 2022 Advent Calendar 3日目 量子物理学班の何か
挨拶
こんにちは、物理学科3年のむぅです。カワウソです。物理学科学生有志による五月祭企画「Physics Lab. 2022」の量子物理学班の班長をしています。よろしくお願いします。アドカレの初めは各班長が班紹介を兼ねて何か書こうという話になり、筆をとっております。
この班は何をするのか?
まず初めに、「テーマ広すぎ!」思っております 1 。あとは「楽しければなんでも OK」ぐらいノリで活動しています。その結果、トピックは幅広くなりそうですし、多様性があって面白くなるのかなと思っております。たぶん、量子力学っぽい話で見てなるほどってなる話とか、QC っぽい話で手を動かしてみようみたいなこととか 2 をすると思います。それから、これは全班に共通していると思いますが、「わかりやすい」し「楽しい展示」的な要素をちゃんと盛り込みたいと思っています。乞うご期待 3 !
こんなことに興味を持っています
お気持ちパート
とはいえ、何か物理の話をしないと物足りないので、自分が興味を持っている話をします。
最近はよく超伝導について勉強をしています。物性物理の代表格(個人の感想です)って感じがしますよね。量子物理学といえばそうなんですが、もう少し踏み込んで、量子情報(QI)の概念とどう結びつくのか気になっています。とどのつまり、「超伝導をエンタングルメント(とか QI の観点)から語るとおもしろいのか?」ということです。
お勉強パート [1]
ということで、ここからちょっとだけ勉強パートに入ります。なお、このアドカレでは解説というか紹介のつもりなので、事細かには書きません 4 。
波数 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\vec{k}\)、スピン \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\sigma\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) をもつ電子の生成消滅演算子を \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}c_{\vec{k},\sigma}^{\dagger}\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}c_{\vec{k},\sigma}\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) とします。常伝導状態でのバンド分散を \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\epsilon_{\vec{k}}\)、電子間に対相関をもたらす引力相互作用を \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}V_{\vec{k}',\vec{k}} < 0\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) とします。超伝導 BCS 理論の主役は Cooper pair でしたね。 有効ハミルトニアンは、
と表されます。ここで、真空状態を \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\lvert{\Phi_v}\rangle\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) とすれば、BCS 状態は
と表される変分波動関数です。ここで、\({u}_{\vec{k}}\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}{v}_{\vec{k}}\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) は一般には温度に依存する実数のパラメタで、状態ケット \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\lvert{\Phi}\rangle\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) の規格化条件 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\langle{\Phi|\Phi}\rangle = 1\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) から \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}v_{\vec{k}}^2 + u_{\vec{k}}^2 = 1\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) を満たします。 これは、エンタングルメント(量子もつれ)状態です。というのも、ペア (\(\vec{k}\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}-\vec{k}\hspace{0.2em}\)) を考えていて、
かつ
なる \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\alpha\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\beta\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\gamma\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\delta\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) の組がないからです。
この BCS(基底)状態は [2] で提案されています。その意味は、異なる数の電子のもつ状態の重ね合わせということです。光子のコヒーレント状態にも似ていますが、現実の描像だと不思議です。というのも、電子には質量や電荷があって、異なる数の電子を重ね合わせるということは異なる質量や電荷を重ね合わせているという話だからです。ミスリーディングになってしまうと困りますが、この不思議さは(ちゃんと議論すれば)問題ない 5 らしいです。結局、電子数を計算すれば定数(\(N_0\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) とかく)に鋭いピークがある、つまり、電子数は \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}N_0\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) に固定されているということがわかるからだそうです。
ちなみに、2つの Fermi 粒子 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\xi_1\hspace{0.2em}\), \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\xi_2\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) の束縛状態の波動関数 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\phi(\xi_1,\xi_2) = - \phi(\xi_2,\xi_2)\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) と Fermi 粒子系の場の演算子 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\psi^{\dagger}\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) を用いて、「Cooper pair 生成演算子」
$$ Q^{\dagger} \coloneqq \frac12 \int \mathrm{d}\xi_1 \int \mathrm{d}\xi_2 \phi(\xi_1, \xi_2) \psi(\xi_1)^{\dagger} \psi(\xi_2) ^{\dagger}$$を用いれば BCS 波動関数は、規格化定数 \(\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}A\hspace{-0.2em}\hspace{0.2em}\) を用いて$$ \lvert{\Phi}\rangle = A \sum_{n=0}^{\infty} \frac{\left(Q^{\dagger}\right)^n}{n!}\lvert{0}\rangle = A \exp(Q^{\dagger})\lvert{0}\rangle$$と表せるそうです。こう見ると、光子のコヒーレント状態とのアナロジーがわかりやすいですね。
さて、ここでなにが言いたかったかと言いますと、Cooper pair を考える分にはエンタングルメントの構造が自然に(?)現れているわけですね。ということは、たとえばこの系のエントロピーを計算してみたらよいのでは?という発想 6 が自然に思えます。ということで皆さん、よく知られた物性物理の諸々に QI の見地がどれぐらい有用なのか気になってきたことと思います。
終わりに
今日の話はここまでです。おもしろく、わかりやすく解説をできるようにする所存です。量子物理学班をよろしくお願いします。 来週また記事を更新するつもりですが、今度はあまり物理の話をしないつもりです。では、また来週。
参考文献
『量子系のエンタングルメントと幾何学 ホログラフィー原理に基づく異分野横断の数理』松枝宏明 森北出版株式会社 ↩
J. Bardeen, L.N. Cooper, J.R. Schrieffer, Phys. Rev. 108 (1957) 1175. ↩
『気体液体相転移の古典論と量子論』國府俊一郎 サイエンス社 ↩
『統計力学から理解する超伝導理論[第2版]』北孝文 サイエンス社 ↩