Physics Lab. 2022 Advent Calendar 4日目 生物物理班だよ
こんにちは!!理物3年のtgysです。Physics Lab. 2022の生物物理班で班長をやったり、デイジー・ベルを歌ったりしています。
深刻な記事不足の中、「Advent Calenderで各班の紹介を書けばよいのでは??」ということになったので書いています。その甲斐あってか無事25日分埋まりそう。理物に聖夜がやってくる、いい話!
記事予告をみると、どうやらブツリブツリしたまじめな記事が多そうなので、この記事はゆる~く行きます。
生物について考えてみる
あなたは生きていますか?
生きているんじゃないでしょうか、たぶん。
じゃあ、そこのIKEAのサメは?
残念ながら生きていないですね。
普遍性
このように、私たちは普段なんとな~く「生きている」「生きていない」を判断していますが、ほとんどの場合その直感は当たっています。いったい、この「生物っぽさ」=普遍性の正体は何でしょうか?よく挙げられるのは次の3つでしょう:
- 外界との仕切りがある
- 代謝(物質とエネルギーの出入り)を行う
- 進化を伴う自己増殖能力がある
人間もIKEAサメも、外部との境界は持っています。人間は数時間するとなんだかおなかがすいてきますが、IKEAサメは餌のいらない利口な友達です。進化はさておき、人間の増加は社会問題になっていますが、ある朝起きてIKEAサメが増えていたなら、それは誰かが置いてくれたプレゼントです。
今は「生物」の共通項(とされるもの)を考えましたが、さらに細かい共通項ごとにグルーピングしていくことが分類のはじまりです。
多様性
それでは、同じ"種"に分類された生物はそっくり同じでしょうか。そこまで親しくない人間の顔は忘れてしまいがちですが、よくよく見ると、みんなちがってみんないい、かけがえのない存在✨です。一方、かごに押し込まれているIKEAサメはすべて商業主義の産物なので、他と異なるものは並んでおらず、どれを買ってもよろしい。生物では、「オリジナルとだいたい同じだけど、ちょっとだけ違う」という、ある程度の多様性が許されていて、実はこれが生物進化のカギになっています。
頑強性
毎日強く抱きしめてみましょう。人間は多少抱きしめどころが悪くて骨が折れてしまっても、たいていの場合いつか治って元気になります。一方で、IKEAサメは日々のスキンシップによってどんどんほつれてしまいます......(悲しい)。生物には、外乱や環境変化に対し、機能を維持しようとする頑強性があると推測できます。
可塑性
頑強性と書くと、頑張って強くしていそうですが、実際は我慢をしているわけではありません。環境からの摂動に応じて変化をする“アソビ”を設けることで、破壊的な変動を防ぐ可塑性によって頑強性が達成されています。
無理やりまとめると、生命現象の大きな特徴として、
- 普遍性と多様性
- 頑強性と可塑性
という、相反するような特徴のバランスがありそうです。
人間(生物) | IKEAサメ(非生物) | |
---|---|---|
普遍性 | 〇 | 〇 |
多様性 | 〇 | ✕ |
頑強性 | 〇 | ✕ |
可塑性 | 〇 | ✕ |
かわいさ | △ | ◎ |
これらの特徴は、次のような生命現象特有の複雑な構造に起因すると考えられています:
- 空間・時間的階層構造 マイクロ秒スケールで構造変化するナノメートルサイズの生体高分子から、細胞小器官、細胞、組織、器官、個体を経て\(\hspace{0.2em}10^3 \,\mathrm{km}\hspace{0.2em}\)オーダーの生態系・数億年単位の進化まで、それぞれの階層が集まって、次の階層を作っています。
- ネットワーク構造 各階層での要素は非常に数が多く、複雑なネットワーク構造を作っています。例えば、遺伝子の発現調節関係やエネルギー代謝、食物連鎖などが挙げられます。
賢明な読者なら気づいたでしょうが、ここまでは物理の話は何も出てきていません。
生物物理とは何なのか
さきほど挙げたような生命現象の特徴的な構造を解析するには、様々なアプローチ方法があります。
生物物理はそのうちの一つで、物理学的手法によって生命現象を理解しようとする姿勢を指します。
要素数が非常に大きくなる階層での系全体のふるまいを説明する上では、統計力学的な視点がとても重要になります。そもそも理論との一致を確かめるべき実験も、各種装置には物理学によって裏付けられた技術が使われています。
また、系の状態の変化は、状態空間上での軌跡とみなして解析することができます。
生物物理班は何をするのか
各班員が興味の赴くまま活動しています。テーマとしては次のようなものが上がっています:
- 生命現象のモデル化 対象となるシステムをモデル化して扱うことで自然現象の理解を目指すのが物理学の姿勢です。適切な仮説やモデルを立て、シミュレーションや実験結果との比較を重ねることで、現象を説明できる程度に複雑で、計算できる程度に簡単な"よいモデル"を考えます。
- 生命現象と熱・情報理論 生命現象は、状態が動的に変化する非平衡な系です。特に生体内での情報処理は重要ですが、メカニズムの理解が進んでおらず、情報熱力学による手法が期待されています。
- 進化・発生 適応進化や、発生過程では、頑強性と可塑性の両立が重要です。物理学の立場からこれらを評価し、ダイナミクスを記述する理論が構築されつつあります。
五月祭までお楽しみに!