Notice: Only variables should be passed by reference in /var/www/vhosts/event.phys.s.u-tokyo.ac.jp/httpdocs/physlab2012/index.php on line 4
[PHYSICS LAB. 2012] 超伝導

超伝導

私達の班は超伝導という物理学の非常に興味深い現象をテーマにして研究、実験を行っています。超伝導とはある種の物質を低温に冷却していくと、ある温度で突然電気の通しにくさの指標である電気抵抗がゼロになり、また、内部に磁場を通さなくなるという現象のことです。展示では超伝導の不思議な性質の紹介、演示実験、事前に行った実験や研究成果の発表を行います。(文・大熊 信之)

超伝導とは?

マイスナー効果による磁気浮上(Wikipediaより転載)

超伝導とはオランダの物理学者ヘイケ・カマリン・オネスによりおよそ百年前に初めて発見された現象で、物質を低温に冷やしたときに電気抵抗が消失し、内部に磁場を通さない等、物質が通常の状態では起こり得ない不思議な性質を示すようになる現象のことです。この文章を見て、金属を冷やすだけで起こるのに何故100年前まで発見されなかったのか? と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、ここで書いた低温と言うのは我々の日常とはかけ離れた温度なのです。例えば最初に超伝導状態が確認された水銀では約マイナス270度であり、地球上で自然に観測された最低気温が約マイナス90度であることを考えるとそう簡単に人類が到達できる温度ではなかったことがご理解頂けると思います。

さて、超伝導の特徴の一つである電気抵抗の消失は日常生活に革命をもたらし得る非常に有用な性質です。電気抵抗が存在すると、電線に電流が流れる時に熱としてエネルギーが放出され(発熱)、エネルギーの無駄が生じます。しかし、超伝導状態にある物質を用いれば電気抵抗が無いためにこのエネルギーの無駄を省くことができ、非常に“エコ”な電線を作ることが可能となります。

実用化には技術的な課題が残されていますが、近年発見された高温超伝導体(超伝導状態になる温度が比較的高温な物質)を利用すれば超伝導を用いた送電線が日常風景の一部になるのもそれ程遠くない未来のことでしょう。

また、現在既に実用化が成されている物としては超伝導体を用いた電磁石が挙げられます。超伝導体を用いると発熱を伴わずに電磁石を作ることができ、非常に強力な磁石を作ることが出来ます。この超伝導電磁石は実際に医療の現場でMRIの一部として用いられています。

このように、超伝導は通常とはかけ離れた性質を持っている一方で、日常生活にも非常に有用であるため、物理学の主要なテーマの一つとして研究が成されてきました。

研究展示1: 超伝導体のフェルミ面の測定

量子振動を測定し、フェルミ面を決定するための実験装置

初期に発見された超伝導体はそのほとんどが金属、合金の類のものでした。しかし、上述の高温超伝導は金属とは正反対の性質を持つ、電気を流さない絶縁体に手を加えた物質を冷却することにより発現します。この高温超伝導体は一般に2次元のシートが折り重なった層状の構造を持ち、電気伝導の方向がほぼそのシート内に限定されることから2次元電子系と呼ばれることがあります。

この2次元性を見る方法の一つとして、フェルミ面と呼ばれるある種の物質に固有な曲面を測定することが挙げられます。

さて、フェルミ面とは何か、以下で説明したいと思います。

電子の状態はその電子の持つ運動量と、スピン(磁石の向きのようなもので、電子の場合↑、↓の2通りが考えられる)により指定され、一組の(運動量、スピン)で指定される状態には一つの電子のみが入れるという規則があります。何やら難しい用語が並びましたが、電子が取り得る状態を座席と考えてやると分かりやすいかと思います。座席(A列、右から2番目)に座れる人数が一人であるように座席(運動量p、スピン↑)に“座れる”電子は一つという訳です。この座席に人(電子)を埋めて行くことを考えます。座席がたくさん並んでおり、座り心地が座席に書いてあるとします。すると人々(電子達)は座り心地が良い席から順に座ろうとするでしょう。このとき図のような座り心地になっているとすると

全員が座った後、人(電子)のいる座席と人(電子)のいない座席との間に輪のような境界が出来ます。図の例では2次元的ですが座席が3次元的に配置されている場合、この境界は曲面になることがお分かりかと思います。この面のことをフェルミ面と言います(物理用語で言えば、波数空間内の準位にエネルギーの低い順に電子をつめた時に占有、非占有の境界となる曲面のことをフェルミ面といいます)。

さて、このフェルミ面は2次元性の強い物質では筒状になることが知られています。逆にフェルミ面を観測してそれが筒状であればその物質が2次元電子系の様な振る舞いをすることが裏付けられるという訳です。

今回我々の班では、Sr2RuO4という風変わりな超伝導体(スピントリプレット超伝導体)のフェルミ面を調べました。時間の余裕があれば高温超伝導体のフェルミ面の測定も行う予定です。

実際にフェルミ面を測定するには量子振動と呼ばれる現象を利用しますが、詳細は五月祭展示にてご覧下さい。

研究展示2: 超伝導を記述するBCS理論の概説と模型

自主ゼミの一景

超伝導はその不思議な性質から、発見当初から精力的な実験、測定が成されてきましたが、超伝導の仕組みを説明する理論は発見から50年近い歳月を経てようやく形になりました。この理論はバーディーン(Bardeen)、クーパー(Cooper)、シュリーファー(Schrieffer)により発表されたため、それぞれの頭文字を取ってBCS理論と呼ばれています。この理論により3人はノーベル物理学賞を受賞しています。BCS理論は初期に発見された超伝導体の性質を大部分説明することが出来た一方、近年発見された高温超伝導体を記述するには不十分とされており、現在研究者はBCS理論に代わる理論の発見に精力を注いでいます。

さて、BCS理論とはどのような理論なのでしょうか。理論を詳細に記述するには内容があまりに高度なため、ここでは概略を説明したいと思います。

常温の金属中では電子が一定の方向に流れることにより電流を生じます。このとき、電子は金属中のイオンの振動や不純物により散乱され、先に述べた電気抵抗を生じます。一方、いくつかの冷却した金属中では電子間に引力が生じ、電子2つがあたかも1つの粒子であるかのように振る舞うようになります。この電子2つの対はクーパー対と呼ばれ、さらにこのクーパー対達は動きをそろえて一斉に運動します(位相を揃えた運動)。

このように足並みを揃えて大勢のクーパー対が運動する状態が安定であるため、上述のイオンの振動や不純物による散乱を受けずに運動することが可能となります。つまり、電気抵抗は消失します。

主な活動メンバー

大熊 信之超伝導班長。REDBULL中毒者。リアルダメージジーンズを着用していて、いつも同じ服を着ている。
今日もREDBULLとしみチョコを片手に仕事します。
江間 陽平手先が器用すぎて(笑)、超伝導班理論担当専任となった。
チョコレートが嫌いなのでチョコボールを毎日食べる。現在銀のエンジェル4枚所有。
窪田 大班内唯一の大阪人。関東人にボケを放置されることが多いことに落胆している。
大量の本を所有しているが、どのようなルートで手に入れたかは不明。
清水 浩之手先が器用なうえ、理論もガンガンやるスーパーマンだが多分S。
ひょんなことからあだ名が「マイスター」となったが、本人は気に入っているようだ。
野村 充BEC班と超伝導班を掛け持ちするという欲張り、というか裏切り(笑)。
今日もはるばる埼玉からやってきて超伝導班の活動が始まる……。
山道 智博動画係のボス。マニアックなことからマニアックなことまでよく知っている。
気がつけば、彼の変な口癖が班内に蔓延しているのが悩みの種だ。