宇宙素粒子班の紹介
はじめに
みなさんは、「宇宙はどのように始まったのだろう?」、「物をどんどん小さくしていったらどうなるのだろう?」、「われわれは、なぜ存在しているのだろう?」と疑問に思ったことはありませんか? はるか昔から、人類が問い続けてきた、奥の深い問いだと思います。 幸運なことに、これらの問いの答えに近づくことのできる時代になっています。「科学」としての挑戦です。 私たち、宇宙素粒子班の展示では、「宇宙」と「素粒子」の世界の一部をご紹介します。素粒子の種類は、いくつかあるのですが、今回は「電子」と宇宙由来の「ミューオン」について展示しています。「宇宙」と「素粒子」の世界に親しみを持っていただけると幸いです。
私たちは2つのことに取り組みました。
1.オルソ・ポジトロニウムの半減期の測定、と2.宇宙由来の素粒子ミューオンを使った安田講堂の「透視」実験、です。
オルソ・ポジトロニウムの半減期の測定
身の回りにある物を構成するのは、原子です。原子は、陽子や電子、中性子といった「粒子」によって構成されています。ですが、全ての「粒子」には影武者のような、「反粒子」というものが存在しています。その「反粒子」は、もとの「粒子」と電荷の符号が逆なこと以外、性質は同じな「そっくりさん」です。粒子と反粒子が衝突すると、光を出して消滅するという性質があります。例えば、電子の反粒子は、陽電子と呼ばれています。陽電子は、電子とは逆の正の電荷を持っていますが、それ以外は、電子と質量やスピンなどの性質が同じです。
いきなりですが、一番軽い原子は何でしょうか? 陽子1個と電子1個が引き合うことで生まれる、「水素原子」と考えられた方もいらっしゃるかもしれません。実は、「水素原子」は一番軽い原子ではありません。先ほどの、陽電子を使った「ポジトロニウム」が宇宙一軽い原子です。「ポジトロニウム」は、陽電子1個と電子1個が引き合って生まれる原子のことです。水素原子の陽子を、陽電子に置き換えた原子と考えることができます。さらに、ポジトロニウムには2種類があります。しかし、水素原子とは異なり、ポジトロニウムは不安定で、すぐに崩壊して消えてしまいます。
その崩壊の様子には、他の全ての粒子にも共通した面白い性質があります。粒子は「劣化しない」のです。それを理解するために、家電製品の故障と粒子の崩壊を比べてみましょう。家電製品は生産された時間が経ちにつれて、「劣化」し、故障する確率が大きくなります。もし、たくさんの家電製品の生き残りの数を、時間を追って調べると、作りたての時は故障する数は少ないですが、時間が経つと壊れる数が急激に増えます。一方、全ての粒子は、作り立ての時も時間が経ったときも、崩壊する確率は一定で「劣化しない」のです! もし、たくさんの粒子を用意して生き残りの数を、時間を追って調べると、「劣化しない」ことを反映して、指数関数的に、生き残りの数が減るのです。
私たちは、オルソ・ポジトロニウムの生き残りの数が、半分になる「半減期」を測定しました。展示を通して、粒子は「劣化しない」という面白い性質をご紹介します。
宇宙由来の素粒子ミューオンを使った安田講堂の「透視」実験
もう一つの研究トピックは、素粒子ミューオンです。電子と、ほとんど同じ性質を持った「兄弟」のような素粒子です。ミューオンの方が電子より質量が大きい点が異なります。ミューオンはどこにあるのでしょうか? 実は、目には見えないだけでとても「身近な」素粒子なのです! ミューオンは、宇宙を飛んでいる陽子や原子核が地球の大気に突入してきたときに生まれ、地上に降り注いでいるのです。どのくらいの頻度で地上に到達しているかというと、手のひらに1秒間に1個の頻度で到達しています。想像以上にたくさんのミューオンが地上に到達しているのです。
ミューオンは人体に悪影響がないか、心配になられる方もいらっしゃるかもしれませんが、実はミューオンは透過力が強いため、人体に影響はありません。「通り抜けてしまう」のです。ですが、コンクリートのような密度の高いものを通るときは、一部のミューオンはエネルギーを失い、「通り抜けられない」こともあります。この現象を使えば、建物を「透視」することができるのです。つまり、建物を通り抜けられるミューオンの数が少ないということは、建物の密度が高く、逆に、建物を通り抜けられるミューオンの数が多いということは、建物の密度が低いということです
具体的な利用例として、ピラミッドの内部や火山内部の調査あります。最近、新聞で取り上げられていますが、事故が起こった原子炉の内部の調査ができるかもしれません。調査することが難しい原子炉内部を、より安全に調べることが期待されています。私たちは、10月から2月まで電子回路を自作し、理学部一号館での予備実験の後、東京大学の象徴的な建物である、安田講堂をミューオンで「透視」しました。展示で、素粒子ミューオンの面白さをご紹介します。
展示内容
オルソ・ポジトロニウムの半減期の測定
・粒子と反粒子とは?
・宇宙一軽い原子ポジトロニウム
・粒子の半減期
・家電製品と粒子の違いとは?
・粒子の半減期の測定結果
宇宙由来の素粒子ミューオンを使った安田講堂の「透視」実験
・素粒子ミューオンはどう作られるの?
・ミューオンでなぜ「透視」できるの?
・一緒に、ミューオンが来ていることを確認しよう!
・理学部一号館内でのミューオンの到来数
・安田講堂の「透視」結果
活動メンバー:
村田龍馬、逢澤正嵩、宮藤大輔、長野晃士、助野裕紀、田原弘章、小島崇史、岩村由樹、 樊星、柳圭介、海老原周、野口亮
謝辞:
ミューオンの実験では、理学部物理学科の牧島・中澤研に実験装置をお借りし、アドバイスをいただきました。地震研究所の田中宏幸先生と草茅太郎さんには、アドバイスをいただきました。また、理学部一号館と安田講堂での実験の許可をいただきました。特に、物理事務の皆様にお世話になりました。
ポジトロニウムの実験では、理学部物理学科の浅井研、素粒子物理国際研究センターICEPPの皆様に実験装置をお借りし、アドバイスをいただきました。
皆様に、心より感謝申し上げます。