BEC班の紹介
はじめに
BEC班について
BEC班では、原子を-273℃(絶対零度)近くの超低温にすると生じる、“ボーズ・アインシュタイン凝縮(略称BEC)”という不思議で面白い状態をつくりだす実験を行っています。それに伴って、BECの理論的背景や、BECを利用したシミュレーションもおこなっています。五月祭当日では、実験・理論・シミュレーションの3つの側面から、BECに触れていただきたいと思っています。
BECってなに?
皆さんは超伝導や超流動といった言葉を聞いたことがあるでしょうか?超伝導とは、特殊な物質を冷やしていくと突然ある温度以下で電気抵抗が0になってしまい、その他にも不思議な振る舞いを見せる現象のことです。超流動とは、液体ヘリウム(吸い込むと声が変わるあのヘリウムです)を-269℃以下にすると突然液体の粘性(ねばねばさ)が0になってしまう現象のことです。粘性が0なので容器の壁を勝手に上っていくこともできます。
私たちBEC班がテーマとしているボーズ・アインシュタイン凝縮(略称BEC)は、このような超伝導や超流動現象の物理的な起源といえる現象です。どのような現象なのかを一言で表すのはとても難しいのですが、イメージとしては「超低温では極めて多くの粒子がある一つの状態に集まってしまい(凝縮)、それらが一斉に整然と動く結果、不思議な現象が起こる」ということです。
参考映像
「超伝導」https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=0IkiEQTpqgU
「超流動」https://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=TBi908sct_U
具体的には?
粒子を人にたとえて考えてみます。高温でまだボーズ・アインシュタイン凝縮していない状態はスクランブル交差点のように人々がてんでバラバラに動いている状態(図1)、超低温でボーズ・アインシュタイン凝縮した状態は軍隊の行進のように人が一斉に整然と動いている状態(図2)です。超流動でいえば、ボース・アインシュタイン凝縮が起こった超流動状態ではたくさんのヘリウム原子(粒子)が一斉に整然と動くようになって、まわりの粒子の影響を受けずにスイスイ動けるようになる(ねばねばさがなくなる)のです。
図1:温度が高くて、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こしていない状態。粒子(人)がてんでばらばらに動いている(The Shibuya Scramble by mediummike)
図2: 超低温で、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こした状態。粒子(人)が状態を揃えて整然と動いている(North Korea 066 by rapidtravelchai)
BECの何が面白いの?
1:ミクロの世界が、この目で見える!
僕たちが住んでいる世界は、大きな世界(マクロ)です。そこでの運動は、たとえば、ニュートンの運動方程式によって(近似的に)記述されます。そして、もっと小さな世界(ミクロ)を記述しようとすると、ニュートンの運動方程式では不十分で、量子力学が必要になります。しかし、僕たちが住んでいる世界があまりにも大きすぎるため、量子力学の効果は、普段は目にすることはありません。そうした量子力学の世界を、この目で見ることができるのが、BECなのです。原子くらい小さくならなければ見えない世界が、ひたすら冷やすだけで見ることができる。これって面白いとおもいませんか?
2:ノーベル賞がたくさん出てる!
1997年には、レーザー冷却の技術に対して、そして、2001年には、アルカリ金属原子の希薄気体でのBECの実現と、その凝縮体の性質に関する基礎的研究に対して、ノーベル賞が与えられています。関連の深い、超流動や超伝導まで含めれば、さらに多くのノーベル賞があります。
どうやって冷やすの?
ひたすら冷やす「だけ」で見ることができる、と言いましたが、その「だけ」が非常に難しく、BECの実現には、その理論的予想から、70年以上もかかりました。大きくわけて、2つの手法を順番に用います。「レーザー冷却」と「蒸発冷却」です。「レーザー冷却」によって、温度を、絶対零度から0.0001℃だけ高い温度にまで冷やすことができます。そして、「蒸発冷却」によってさらにその1000分の1まで温度を下げます。
先にも述べたとおり、「レーザー冷却」は、それだけでノーベル賞が与えられてるすごい技術です。僕たちは、この「レーザー冷却」に力を入れて実験をしました。
レーザー冷却ってなに?
レーザーポインターでも使われているレーザー。これを使って、原子(今回の実験では、ルビシウムRbを用いました)を冷やすことができるんです。ここでは、その仕組みを簡単に説明します。詳しく知りたい方は是非、当日聞きに来て下さい!
次の2つのことがポイントです。まず、ドップラー効果を御存知でしょうか?例えば、救急車が通り過ぎる時に音の高さが変わります。これは、音が波であるため起こる現象です。実は、光も波の一種です。そのため、救急車のときと似たことが起こります。
Rbから見ると、レーザーを出している機械の方が動いているように見えます。そのため、Rbから見ると前方と後方のレーザーはこのようになり、波長が違って見えるのです。(波長は、光の色のことだと思ってください)
次に、実はRbなどを含めた原子はある特定の波長しか感じません。そして、その波長から少しでもずれると、感じなくなってしまうので、ぴったりとこの波長に合わせる技術が必要になります。どれくらい細かく調整するかというと、地球と太陽の距離に対して、手のひらサイズくらい。ここにとても苦労しました。
この二つから、レーザーの出す波長をうまく調節してやれば、全方向からレーザーを受けているRb原子は前からのレーザーしか感じなくなります。これはつまり、どの方向に進んでも前からレーザーがきてぶつかってくるように見えるので、原子は速さが落ちます。速さが落ちるということは、運動がゆるやかになってくるので、原子は温度が下がっていくわけです。
磁気光学トラップ(MOT)で原子をつかまえる
レーザーを使って冷やすだけでは、気体の原子は逃げてしまいます。原子を捕まえておく手法が、磁気光学トラップ(MOT)という方法です。これは、レーザーを6方向から入れつつ、写真のように上下にコイルを設置して、電流を流すことで、磁石が引き寄せられる磁場をつくります。これによって、「冷やしながら捕まえる」ことが可能になります。
ここまでが、僕たちが取り組んだことで、その装置の全体像が次の写真です。当日は1つ1つについて細かく説明する予定です。
さらに冷やすためには
しかし、BECを実現するには、これだけでは足りず、さらに1000分の1まで冷やす必要があります。そこで、偏光勾配冷却・蒸発冷却といった手法を用いるのですが、こちらはここでは省略します。
当日ポスターで説明していますので、ぜひ聞きに来て下さい。
BECを使ってなにができるの?
最後に、ボーズ・アインシュタイン凝縮の研究がどのように応用されるのかについてです。正直に言って、この研究は私たちの生活に直接すぐに役に立つという類のものではありません。しかし、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こした物質を用いれば物理学の本質に迫る精密な実験を行うことができ、さまざまな物理理論の大きな発展に貢献すると期待されています。例えば発見以来40年以上謎のままの高温超伝導の仕組みが解明できると思われていて、もしそうなれば新しい超伝導体が開発され、それを用いたより便利な機械が生まれるかもしれません。あるいは、ボーズ・アインシュタイン凝縮を起こした物質を用いれば量子コンピューターという夢のコンピューターが実現できるかもしれないと研究がすすめられています。こうした最新の研究・話題についても、五月祭当日に講演などを通して触れたいと思っています。
当日の展示内容
当日の展示の流れは図のような感じを予定しています。
BEC班ではなにをやっているの?
ここでは、BECについて、基礎的な部分を解説します。また、どんな実験をやったかも簡単に説明します。前提知識は全く必要ありません。
シミュレーション
パソコン上で実験する。BECをパソコン上で作って見ました。どういう方程式をパソコンに解かせたのか、そこから何がわかるかを説明します。パソコンも展示する予定なので、その場で見ることができます。
どんな実験をやっているの?
BEC班が実際にやった実験装置の写真や、実験手順を説明します。実際の装置を使って、レーザーを操るコーナーも設置する予定です。
詳しい説明
発展コーナーです。ここまでの説明では物足りない!という方向けに、さらに細かい実験技術について説明します。
活動メンバー
中尾 光孝/4年/班長
米田 浩基/4年/回路パート長
齋藤 岳志/4年/光学パート長
末次 祥大/4年/制御・シミュレーションパート長
堤 建太朗/4年/回路パート
山本 航平/4年/なんでも屋
飯田 耀/4年/光学パート
婁 天濛/4年/制御・シミュレーションパート
野本 敦朗/4年/当日助っ人
吉岡 信行/4年/当日助っ人
立石 幾真/3年
久保 尚敬/3年
浦 宏行/3年
苅田 裕也/3年
吉野 匠/3年
謝辞
理学部物理学専攻の五神先生、そして光量子科学研究センターの堀越先生には、何からなにまでお世話になりました。
実験器具を貸して頂いた、物理学専攻の、牧島先生、福山先生。そしていつでも優しく相談に乗ってくださった技術室の八幡さん。
2年前のBEC班の先輩方、そして1年前の物理定数班の先輩方にもたくさん助けてもらいました。
ありがとうございました。