計算班機の紹介

はじめに

近年、計算機(コンピュータ)の性能が急速に発達し、物理における使い道も幅広くなってきました。むしろ、研究の現場でコンピュータを使わないほうが少なくなってきています。

コンピュータを使えば複雑な数式も比較的手軽に表現できますし、莫大な量の実験データの解析にも一役買っています。さらに、直接目で見ることの出来ない現象を映像化することができるので、物理が苦手な人にも物理を身近に感じてもらうきっかけになるでしょう。

私たち計算機班は、コンピュータを用いて物理現象のシミュレーションを行いました。

今年は、それぞれの班員の興味に応じて、例えば、
水の流れ、磁石の性質、星の集団運動、二重振り子、宇宙ステーションのドッキング
などの題材を扱っています。

皆さんが知らない物理の世界を分かりやすくお伝えします。

現代科学への貢献 ~欠かせない道具~

物理学はもちろん、現代の科学では、コンピュータは欠かすことのできない存在となっています。ここではコンピュータがどのように役立っているか見てみましょう。

まず、あらゆるモデルのもとにコンピュータシミュレーションを行うと、それぞれどんな結果となるのか予測することができます。これを実験結果と照らし合わせれば、正しそうなモデルを選択することができます。これは、たくさんのスタート地点を用意して、この中で正しいゴールにたどり着くものを探していくようなものです。例えば、宇宙が生まれて間もない頃、宇宙は「インフレーション」と呼ばれる急激な膨張を起こしたと言われています。このインフレーションには主に数十ものモデルが提唱されていますが、宇宙のあらゆる方向からくる光を観測し、シミュレーションと比較することで、いくつかのモデルにしぼることができます。

また、近年の物理実験では莫大な量のデータ取り扱うものが増えており、コンピュータを用いた解析が不可欠です。例えば、新しい素粒子を発見するための実験では、非常に数多くのデータを集める必要があります。これは、一回だけ観測されるより何度も観測された方が、データの信頼度が高まるからです。昨年、報道をにぎわせた「ヒッグス粒子」の発見もその例で、99.9999%以上の確率で存在することが確かめられています。

以下では、もう少し具体的に、コンピュータの強みを見ていきましょう。

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[2011年当時世界最速だった理化学研究所の京コンピュータ]

長所1 ~大量に、高速に~

コンピュータの一番の強みは、「大量」の計算を「高速」に処理することです。

例えば、宇宙には「球状星団」という数百万個程度の星の群れが存在します。これらの星の動きを解明するには、数百万個の式を解かなくてはなりませんが、もし紙と鉛筆を使って計算したとしたら一生かかっても終わりません。一方、コンピュータを用いれば、数分から数日程度で計算することが出来てしまいます。下の図は、実際の球状星団シミュレーションのワンシーンです。

また、調べるのが難しい流体(液体や気体など)の運動も、流体を細かく刻んでそれぞれ粒と見なせばうまく調べることができます。このとき、ある程度細かく刻んだ方が流体らしくなるのですが、細かくなるほどたくさんの計算をしなければならなくなるため、コンピュータの計算力が多いに発揮されます。

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[球状星団の運動シミュレーション]

長所2 ~自由自在なサイコロ~

そして、コンピュータのもう一つの強みは「確率的」な扱いが得意であることです。原子と同じくらいの大きさ(1cmの一億分の一)の世界をのぞいてみると、あらゆる物理現象が確率的に決定される世界があることが知られています。例えるなら、特別なサイコロに従ってものの運動や性質が決まっているような世界です。このような世界を考えるときには、実際に何度もサイコロを振るわけにもいかないので、コンピュータが作り出すサイコロ(これを乱数という)を使うことがあります。これは、金属や有機化合物、半導体など、私たちの身の回りの物質の性質を調べるのにも用いられています。

例えば、最近のドライバー(ねじ回し)の中には、ねじとくっつくようにしたものがあります。これは、ドライバーの鉄が磁石のはたらきをしているためです。鉄の中にはたくさんの小さな磁石が並んでいて、隣合う小磁石はなるべく同じ方向を向こうとする性質があります。このために、N極上向きのグループとN極下向きのグループにわかれてしまいます(図左)。この状態では上向きと下向きの磁石が打ち消し合っているのでくっつくことはありませんが、他の磁石でうまくなでてやると下向きの小磁石が増えて(図右)、全体として磁石のはたらきを持つようになるのです。

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[鉄の中の小さな磁石のシミュレーション(赤:上向き磁石、青:下向き磁石)]

長所3 ~コンピュータの中の実験室~

「ものすごく強い磁石を近づけると物質はどうなるか」という疑問があったとします。地球上で作ることの出来る磁石の強さは限界があるため、実験できない場合があります。他にも、宇宙の起源を知りたいからといって、もう一つ宇宙を作るわけにはいきませんし、ブラックホールの研究をするために、地球上で大きなブラックホールを作り出すこともできません。このように実際に実験できないようなものを考えるときにもコンピュータは役に立ちます。言うなれば、コンピュータの中に実験室を作ることができるのです。これは、現在の物理の枠組みを理解する強力な手段となっています。

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[ブラックホールのイメージ]

展示内容

流体力学、多体振り子、BEC(ボーズ=アインシュタイン凝縮)、衛星の運動、コリオリ力、イジング模型、プラズマの閉じ込め、ヴァン=アレン帯など。

主な活動メンバー

小島、羅、高木、足立、尉林、呉、末次、久保、近藤、宇佐見、勝見