生物物理班の紹介

はじめに

生物ってなんだろう。

これはおそらく誰もが抱いたことのある、素朴だけど深淵な疑問です。物理学者も例外ではなく、この問題を物理の手法・アイディアを用いて解き明かそうとしました。そのようにして生まれたのが、生物物理学です。

扱う対象はタンパク質・核酸といった分子のスケールから、細胞/個体、さらには脳・神経系といった高次の生命機能に至るまで多岐にわたりますが、生命の普遍的な法則を見つけ理解したい、という最終目標のもと日々進化を遂げている領域です。

今回、五月祭生物物理班では、生物物理学の幅広い研究対象の中でも、「モータータンパク質」に焦点を当て、展示を行います。

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まずは身近な問いから

重いものを持ち上げる時、筋肉を使いますね。さて、この瞬間、筋肉の力はどのようにして生まれるのでしょう?筋肉が収縮するから?ではなぜ筋肉は収縮するのでしょう?

今度は、あなたの脳の中を想像してみてください。神経細胞の中には長さが10センチ以上にもなるものもいますが、どうやって栄養を細胞の隅々まで運んでいるのでしょう?なにかしら「血管」のようなものが細胞に張り巡らされていないとこのような機能は達成できないはずです。

これらの問いの答えを握るのが、「モータータンパク質」と呼ばれる分子です。

炭素、水素、酸素、窒素などが数万個連なったこの分子は、文字通り「モーター」として、力を発生させたり、ものの輸送を行ったりする不思議な分子です。

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【写真:キネシンの分子構造】

モータータンパク質とは?

モータータンパク質とは、ATPの化学エネルギーを機械的な力に変換する機能をもったタンパク質です。

例えばキネシンと呼ばれる分子は、1個のATPを加水分解することで、微小管というタンパク質でできた「レール」の上を8nmだけ「歩く」ことが知られています。

それはまさに分子でできた世界最小の”モーター”と呼ぶことができるでしょう。

モータータンパク質には他にもいくつかの種類が知られており、動物の筋肉の力の発生源として働いたり、細胞内の物質を輸送するなどの機能を担っています。

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【図・・・キネシンのステップの様子(出典:「キネシン」「フリー百科事典 ウィキペディア日本語版」2014年4月26日22時(日本時間)現在での最新版を取得)】

ゆらぐ世界で機能するモータータンパク質!

モータータンパクという対象に対して、物理学が抱く最も率直な疑問は「それはどのような仕組みで動いているのか」という問題でしょう。

ここで、タンパク質の住むミクロの世界を覗いてみましょう。私たちは普段、水に触れても水分子の衝突などというのは感じませんが、タンパク質のスケール(ナノメートルの世界)では、タンパク質は常に周りの水分子の衝突を受けることになります。人間に例えるならば、四方八方から無数のピンポン球を絶えず投げつけられて存在している感じです。

このように、モータータンパク質は常に水分子に邪魔をされながら、レールの上を運動しなければなりません。

常識的に考えるとこれはすごく大変で非効率なように思えます。

しかし、最近の研究でわかってきたことは、モータータンパク質はこのゆらぎを上手く利用して運動をしているということです。

大雑把にいうと、後ろから水分子に押された時は押されて前に進み、前から押された時は踏ん張って止まる。こうすればゆらぎを利用して一方向に運動することができます。

モータータンパク質はこのように、これまで人類が設計してきたモーターとは違った原理を利用して動いていると考えられています。

そこには、新しい物理のフィールドが待ち構えているはずです。

五月祭当日の展示では、このようなモータータンパク質についてわかったこと、そしてまだわかっていないことをわかりやすく展示しています。

実験:モータータンパク質に綱引きをさせてみよう!

生物物理班は「モータータンパク質同士が綱引きする様子を観測しよう」というテーマのもと、様々な工夫を凝らして実験を行っています。

我々は特にキネシンとダイニンと呼ばれるモータータンパク質に着目しました。

これらのモータータンパク質は、微小管と呼ばれるタンパク質でできた「レール」の上を歩く機能を持っていますが、キネシンは微小管の+端方向へ、ダイニンは−端方向へと、それぞれ逆の方向へ運動するという性質があります。

そこでこのキネシンとダイニンを「綱」でくっつければ、分子モーターによる綱引きが起こるはずです。

簡単な問いとしてはキネシンとダイニンのどちらが勝つのか?という問題があります。

さらに物理的な興味としては、分子による綱引きの様子は我々が日常的に経験するスケールの綱引きとどう違うのか?という問いがあります。

さて結果はどうなったのか?五月祭当日のポスター発表をお楽しみに!

また、我々はこの研究を始めるにあたり、顕微鏡の装置を自分たちで一から組み上げることから始めました。

当日はこの顕微鏡の装置を展示するとともに、生物物理学の肝となる種々の計測技術についてポスター発表します。

当日の展示内容

1.ポスター発表 ・モータータンパク質とは? ・モータータンパク質の物理 ・生物物理と計測技術 ・実験:モータータンパクに綱引きをさせてみよう!

2.デモンストレーション 自作した顕微鏡を展示します。またこの顕微鏡を使って、大きさが200nmの超極小のビーズがブラウン運動する様子を観察します。

物理・生物の前提知識は必要ありません。理系でない方でもわかるよう丁寧に説明いたします。 みなさまのご来場をお待ちしております。

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【写真・・・生物物理班が自作した蛍光顕微鏡】

活動メンバー

主な活動メンバー

4年 真野智之(班長)、野口亮、森崎宗一郎

3年 大坪舜、小松原航、三崎航

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謝辞

生物物理班は東大理学系研究科物理学専攻・樋口研究室に実験設備および研究指導の支援を頂きました。

この場をお借りして感謝の意を述べさせていただきます。

樋口研究室webページ-> http://nanobio.phys.s.u-tokyo.ac.jp/higuchipro/index.html