東京大学 大学院理学系研究科・理学部

2010年度のPhysics Lab.
低次元物性班
低次元物性班

■ 背景

グラフェンの2次元構造
[fig.1] グラフェンが示す厳密な2次元構造

私たちは普段、3次元空間に住んでいますが、物質によってはその中の電子が1次元、もしくは2次元方向に "住んでいる"とみなせる場合があります。そのような低次元系に住んでいる電子たちは3次元に住んでいる電子たち とは異なった振る舞いをみせたり、あるいは全くべつの粒子に見えることがあります。

例えば2010年のノーベル物理学賞の対象は『グラフェン』[fig.1]でした。 グラフェンとはその名前が示す通り鉛筆の芯に含まれる黒鉛(グラファイト)からきており、厳密な2次元の構造をしています。 グラフェン中の電子は質量が0となることが知られており、そのことからニュートリノと呼ばれる素粒子に例えられることがあります。

このように純粋に理論的に興味深い対象となっているだけでなく、最近では省電力で超高速コンピュータへの応用、 シリコンを超える半導体素子として期待されるなどエレクトロニクスへの応用もさかんに研究されています。


■ 実験

僕たち低次元物性班では次の2つの実験を行います。


①トポロジカル絶縁体の分光測定

ARPES
[fig.2] ARPESの模式図

概要

固体の状態としては、金属、絶縁体、半導体、超伝導体など様々な状態がありますが、最近『トポロジカル絶縁体』と呼ばれる 新しい電子状態が見つかりました。これは固体の内部が電流を流さない、すなわち絶縁体であるにも関わらず、固体表面では 電子が動き回っているというものです。トポロジーとは対象を連続的に変化させても保たれる性質を研究する数学の一分野ですが、 トポロジカル絶縁体のトポロジカルが意味するところは、この表面の電子の状態が、固体内部の不純物などの影響を受けずに安定に 存在するという意味で用いられています。

トポロジカル絶縁体の表面の電子は背景のところでも紹介したグラフェンのように質量が0の粒子としてふるまい、 またその運動はノーベル賞物理学者であるディラックが提唱した相対論的量子力学に従うことが知られています。 このような粒子を彼の名を冠してディラック粒子といいます。

実験

このようなトポロジカル絶縁体表面に現れるディラック粒子の存在を直接確かめるために、ARPES(Angle-Resolved PhotoEmission Spectroscopy)と呼ばれる特殊な 分光装置[fig.2]を用います。これは個体の表面に強い光をあてることで、直接固体内部の電子を調べる装置です。


LSCOの結晶構造
[fig.3] LSCOの結晶構造. 図はhttp://staff.aist.go.jp/h-eisaki/LSCO.htmlより引用.

②ジョセフソンプラズマの測定

概要

超伝導に付随する有名な現象としてジョセフソン効果があります。 ジョセフソン効果とは絶縁体などを介して弱く結合した超伝導体の間に量子力学的なトンネル効果によって、電流が流れる現象です。 また、二つの超伝導体を結合した際に電圧をかけなくても電流が流れるという特徴があります。このようなジョセフソン効果による電流をジョセフソン電流、 またジョセフソン効果を示す、超伝導体同士の接合をジョセフソン接合といいます。

今回用いる高温超伝導体試料はLa_(2-x-y)Sr_xNd_yCuO_4で基本的にはランタノイド系銅酸化物にストロンチウムやネオジウムを ドープ(混ぜた)もので、その構造は[fig.3]のように電流が流れるCuO_2面と電流を流さない絶縁体相が交互に重なっており、 固有のジョセフソン接合をつくっています。これによって常伝導状態では電流はほとんどCuO_2面にしか流れないにもかかわらず、 超伝導状態ではジョセフソン効果によって絶縁体面を飛び越えて電流が流れ、光を当てた場合にはジョセフソンプラズマと呼ばれる電子たちが集団で振動する運動が起こります。

実験

ジョセフソンプラズマの測定のために分光装置を用いて光に対する応答を見ます。プラズマ振動は特定の振動数の光(電磁波) を強く吸収するので、異なる振動数の光に対する吸収率を調べることで、その特性を調べます。