■ 目的
宇宙班では、「宇宙線の軌跡を可視化する装置“スパークチェンバー”を作り、軌跡の幾何学的性質から背景にある素粒子の理論を紐解く」ということを目的として、以下のような活動を行っています。。
■ 背景
前回、前々回のPhysics Lab.で宇宙班は宇宙線についての研究を深めてきました。しかし、目に見えない宇宙線に対する実験では、得られる生のデータは往々にして、コンピュータ上に表示されるただの“数字”です。これではなかなか一般の方に実験の面白さが伝わらないだろうと思い、私たちは宇宙線を直接“目で見える”ようにするため、スパークチェンバーなる装置を作り、宇宙線の軌跡を可視化することを目的としました。もちろん、軌跡を可視化することはそれ自体が興味深いだけでなく、それによってよりダイレクトに宇宙線素粒子の性質を観測することが可能となります。
作成を予定しているスパークチェンバー. 図はhttp://ksc.kek.jp/1st_2007/gaiyou/SC/index.htmlより引用.
宇宙班では次の3つの製作・実験を行います。
スパークチェンバーとは日本語で“放電箱”。その名の通り、その内部を宇宙線が通過すると、その軌跡に沿って放電することによって、宇宙線を“雷の線”として私たちの目に見えるようにする装置です。まずはこれを作製し、宇宙線 の軌跡を可視化します。
宇宙線は地球上のどこでも、どの角度からも降ってきます。しかし、真上から降ってくる宇宙線に対し、斜めからくるものはやや数が減ります。それは斜めからくる宇宙線は、より長く大気の層を突っ切ってこなければならないからです。逆に言えば“大気の透過率が低い宇宙線の成分ほど、ほぼ真上からしか来ない”ということがわかります。
パリティ対称性を説明する際によく鏡像対称性が使われる. たとえば鏡像対称性が破れている世界では, 図のように鏡で移した時刻が元の時刻と異なることがあり得る.
地上付近で観測される宇宙線の成分は主に“ミューオン”という粒子ですが、このミューオンは真上からの角度(これを天頂角と言います)θからくる数はcos^2(θ)に比例することが知られています。私たちはスパークチェンバーを使って、各天頂角の宇宙線数を数え、観測した宇宙線の成分がほぼミューオンであることを確かめます。
宇宙線の反応は、物質の最小単位である素粒子の理論を豊富に含んでいます。先程出てきたミューオンは出来てから10万分の1秒くらいで、“弱い力”によって電子とニュートリノに崩壊します。ところがこの弱い力は“パリティ対称性”という対称性を破るため生成された電子の放出方向に偏りができます。
私たちは降ってきたミューオンをアルミ板で止めて崩壊させ、出てきた電子をスパークチェンバーで観測することで、パリティの破れを観測します。
以上が宇宙班の活動の概要です。当日は実験の説明に加え、作製したスパークチェンバーを展示、作動させる予定です。