物理学は楽しく、そして不思議や驚きに満ちています。物理学や科学の専門知識をお持ちでない方でも、この「PHYSICS LAB. 2012」に足を運んでいただければ、必ずや楽しい物理学の一端を味わっていだだけるはずです。そしてまた、この一大企画の準備と並行して、私たちは「これからの物理教科書プロジェクト(仮称)」を立ち上げました。以下にそのコンセプトをご紹介しましょう。(文・山本 遼)
イントロダクション
物理学は私たちに、世界を見るためのある〝方法〟を与えてくれます。数学に支えられた盤石な基礎の上に「物理の心」をプラスしたこの〝方法〟のおかげで、今日も私たちは安心して水や電気を使ったり、自動車に乗ったり、読書や買い物を楽しんだりできます。つまり物理学は、私たちが当たり前のように日々享受している現代文明のさまざまな恩恵を、その根底から支えているのです。先人たちの知的努力の結晶であるこの学問に触れずして、明日の我が身を案じ、時世を案ずることがあるとするならば、それは単に惜しいのみならず、むしろ危うくさえあります。
物理学は、しかるべき「学び方」を知っていさえすれば、特別な才能などなくとも、楽しく見通しよく理解することができます。しかし悲しいことに、現在、中学校・高等学校で行われている「物理」の教育では、物理学の本質を捉えられていない教え方や、説明にもなっていない「説明」が散見されるのが現状です。とりわけ、歴史的にも物理学のおこりと表裏一体をなしてきた微分・積分の技術は、その応用を学ぶ機会としても、本来であれば物理学の学習に積極的に採り入れられるべきものです。
このような現状を踏まえ、私たち東京大学理学部物理学科の学生有志は活動を始めました。物理学の根源にある精神や心を、いくつかの典型的な例に即して、わかりやすく真っ正直に語る……ただただこのことを通じて、中学・高校程度の実用・応用に十分耐えながらも、それをはるかに上回る知的興奮と展望を提供するような、まったく新しい教科書をつくることを目指しています。ぜひご期待ください。
プロジェクトの成果
まだ開始から間もないこのプロジェクトですが、一部のテーマについてはすでに執筆が始まっています。
「PHYSICS LAB. 2012」の会場では、プロジェクトの概要および実際の教科書のサンプルを展示いたします。また、五月祭終了後も、「PHYSICS LAB. 2012」とは独立したプロジェクトとして末永く活動を続けていく予定です。